来年1月に退任を控えるバイデン米大統領が今月1日、次男のハンター・バイデン氏(54)の「恩赦」を発表した。ハンター氏は今年6月、薬物依存症であることを申告せず銃を不正購入した罪などで有罪評決を受けており、今月16日に量刑が言い渡される予定だった。ハンター氏はこれまで、国境を越えた疑獄事件で様々な疑惑が取り沙汰され、共和党の追及のネタにされてきた。
共和党の追及のネタに
ハンター氏は米国務省勤務やロビイスト、実業家を経て、2020年以降は画家として活動している。起訴状によれば、ハンター氏は140万ドル(約2億円)を脱税し、麻薬や買春、高級ホテルの滞在に利用したという。現職大統領の子供の起訴自体、米国史上初めての出来事だったが、バイデン氏にとってハンター氏はジル夫人とともに最も頼れる相談相手だったとされる。
ハンター氏にまつわる代表的な問題が「ウクライナ疑惑」だ。バイデン氏が副大統領だった時期を含む14~19年、ハンター氏はウクライナのエネルギー企業の役員を務めていた。共和党はハンター氏が父親の肩書を利用して巨額の報酬を受け取ったとして追及を進めた。この企業は汚職などの疑いでウクライナ検察当局の捜査対象となったが、バイデン氏が16年にウクライナを訪問した際、圧力をかけて、捜査を担当する検事総長の解任を求めたとされる。
また、バイデン氏が13年に訪中した際、ハンター氏も同行し、この際、中国企業の社長と懇意になったこともあり、総額480万ドルの「相談料」を受領した。共和党議員は、父親の地位利用などの疑いがあると問題視した。
悲劇を乗り越えた家族愛
ハンター氏は2歳の頃、自動車事故で母親と妹を亡くした。自らと兄は生き延びたが、15年にはその兄が46歳で病死した。21年4月に出版した回顧録で、ハンター氏はこう振り返っている。
「悲劇によって鍛えられ、途切れることのない愛で結ばれた家族に育った」
大統領選で再選を目指したバイデン氏は6月下旬のテレビ討論会で、言葉に詰まる場面などが目立った。民主党内で撤退圧力が高まったことを受けて家族で対応を協議した際、残留を最も強く主張したのはハンター氏だった。バイデン氏も一度は聞き入れたが、7月21日に撤退を表明した。
バイデン氏は今回、声明でハンター氏の起訴について「私の一子であるという理由だけで標的にされた」と持論を述べ、「父親であり、大統領である私が今回の決断に至った理由を、米国民が理解してくれることを望んでいる」と訴えた。(奥原慎平)