米大統領への返り咲きが決まったトランプ前大統領は、最初の任期時、日本を2度訪れ、いずれも北朝鮮による日本人拉致被害者家族と面会している。自筆の書簡を送って激励するなど一貫して「共闘」の姿勢を示し、当時の安倍晋三首相の意思を北朝鮮に直接ぶつけもした。
「拉致問題、常に頭にある」
トランプ氏は平成29年11月と令和元年5月に来日し、被害者家族と都度、顔を合わせた。1度目は東京・元赤坂の迎賓館を会場に、互いが1~2メートルの距離で向き合った。家族は被害者の写真パネルを持参。トランプ氏はそれぞれの家族に「お会いできてうれしい」とほほ笑んだうえで、パネルの被害者について「北朝鮮にいるのですね」「とてもハンサム」「かわいい」などと語った。
面会後、トランプ氏は「拉致はとんでもない行為。安倍(晋三)首相と力を合わせ、母国に戻れるよう尽力したい」と強調した。
令和元年5月の2回目の面会時も、トランプ氏は「拉致問題は私の頭の中に常にある」と語りかけ、「きっと(被害者に)会える」「絶対に立ち止まってはならない」と励ました。
手紙に「あなたはきっと勝利する」
2回目の面会時、拉致被害者の有本恵子さん(64)=拉致当時(23)=の父、明弘さん(96)は、問題解決への後押しを求めるトランプ氏宛ての手紙を米関係者に託した。
すると翌月、トランプ氏直筆の返信が有本さんのもとに届いた。「明弘、あなたのために全力を尽くしています。安倍首相も同じです。あなたはきっと勝利するでしょう。お会いできてよかったです!」と書かれていた。明弘さんは「米国の大統領が手紙をくれるなんて」と驚いた様子で語り、「恵子がいなくなってから苦しい時期もあったが、手紙をいただいて解決が近づいているように感じた」と涙を拭った。
令和2年6月に横田めぐみさん(60)=同(13)=の父の滋さんが死去した際には、翌7月にめぐみさんの母、早紀江さん(88)ら遺族にお悔やみの書簡が届いた。滋さんがめぐみさんら被害者の救出運動に長年、尽力してきたことを念頭に、「すべての被害者家族が、愛する人の居場所について真実を知るべきであるとの不屈の決意に感動した」とつづり、「めぐみさんを必ずご自宅に連れて帰るという重要な任務を続ける」と誓った。
安倍晋三氏からの〝打ち込み〟
思いに行動が伴うトランプ氏。政治の場でもそれは発揮された。
まず、被害者家族との初面会から約2週間後には、北朝鮮を9年ぶりにテロ支援国家に指定すると発表している。さらに、初面会翌年の2018年(平成30年)6月に実施された史上初の米朝首脳会談、続く19年(31年)2月の2回目会談時も併せて、いずれも、拉致問題を提起した。2回目会談では、「顕著な進展を見せていない」と金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記を追求する場面もあったという。
金氏ははぐらかすこともあったが、「いずれ(安倍氏と)会うかもしれない」との返答があったとされる。この感触を受け、安倍氏は、条件なしでの日朝首脳会談開催の意向を明言した。
拉致問題を巡るトランプ氏のこうした行動の背景には、安倍氏の幾度にもわたるトランプ氏への〝打ち込み〟があった。米朝のトップ会談が実現しうることを見越し、安倍氏はトランプ氏に対し、拉致問題の深刻さと、日本はこの問題で絶対に譲歩しないという決意を、ことあるごとに伝達。金氏に伝えるよう求めていた。
トランプ氏が米朝会談で、米朝間の懸案である核・ミサイルの問題だけに議論を終始しなかったのは、この取り組みが奏功したからだった。
今回の米大統領選から一夜明けた今月6日以降、トランプ氏は早くも各国指導者らと電話での〝首脳外交〟を開始。石破茂首相や、北朝鮮との対立が深まっている韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領とも実施した。金氏との再びの接触にも意欲を示しているとされており、対応に注目が集まっている。