トランプ政権下の米国で「多様性・公平性・包括性(DEI)」への反発が広がる背景について、日本国際問題研究所の舟津奈緒子研究員に聞いた。
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米企業や大学でDEIを見直す動きが起きたのは、2023年6月に米連邦最高裁が大学の入学選考で黒人など人種的少数派を優遇するアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)を違憲と判断したことがきっかけだろう。
ジェンダーや人種、移民などを含めた「価値」を巡る対立が、米国の政治的分断を深めてきた背景がある。米政治で価値を巡る対立は、どちらがより米国らしいかを問う「文化戦争」と捉えられる。価値を重視したのが民主党のバイデン前政権だったが、民主党支持者にもDEIの後退を後押しする動きがあり、これには移民問題が関わっている。
移民政策は昨年の大統領選でも大きな争点となった。バイデン前政権は不法移民に権利を与える政策を推進した。これに対し、例えば合法的に入国したメキシコ系移民は、経済や治安が不安定なグアテマラなどからの不法移民と一緒くたにしないでほしいと主張しており、移民の扱いを巡る公平性に疑念を持つ声が増えているという。
20年の黒人差別解消を訴える「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)」運動を受け、DEIは「白人男性に不利」「逆差別」とする声が潜在的に高まった。トランプ大統領の登場で、タブー視されていたことも主張できるとの雰囲気が出た影響もあるのではないか。
しかし、今後はDEI後退への反発も予想できる。トランプ氏は、ワシントン近郊で1月29日に起きた旅客機と米軍ヘリの衝突・墜落事故で、運輸当局が少数派に配慮した雇用を進めたことが管制能力の低下につながったとの論理を展開し、批判が起きているからだ。(聞き手 岡田美月)