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第三次大戦前夜の世界 トランプ流「力による平和」の内実問われる 試金石はウクライナ 「トランプ2.0」の衝撃①

産経ニュース 2024年11月7日 18時20分

米大統領に返り咲くトランプ前大統領は2期目の政権で、「力による平和」を外交・安全保障政策の柱に据えるとされる。敵対者を圧倒する軍事力で侵略を抑止し、無謀な戦争を回避して平和を実現する戦略である。過去にはレーガン大統領が1981年に就任後、ソ連に対して「力による平和」を推進し、東西冷戦の勝利に導いた。

「世界は第三次大戦の瀬戸際にある」。トランプ氏が訴え続けてきた危機意識だ。

共和・民主両政権で国防長官を務めたロバート・ゲーツ氏は昨年9月、「米国がロシア、中国、北朝鮮、イランという4つの敵対国連合と同時に向きあう未曽有の事態」を米外交誌で警告した。

中東では翌10月、イスラム原理主義組織ハマスがイスラエルを奇襲攻撃し、イスラエルとイランおよび親イラン勢力との紛争が拡大した。ロシアはウクライナ侵略の長期化に伴って中国、北朝鮮、イランと結託を深め、北朝鮮がロシアに派兵して参戦するに至った。

米議会が設置した超党派専門家パネル「国防戦略委員会」も報告書で「近い将来、大規模な戦争が起きる可能性」を指摘した。権威主義勢力に対する抑止が効かなかったバイデン政権への国民の不信は、民主党候補、ハリス副大統領への厳しい評価に直結した。有権者は「(自らの任期中に)大規模戦争は起きなかった」と誇示するトランプ氏にかじ取りを託した。

シリアへの巡航ミサイル攻撃が実例

ペンス前副大統領の補佐官だったケロッグ退役陸軍中将は、トランプ氏には「力による平和」の実例があると語る。2017年にシリアのアサド政権が猛毒のサリンを民間人に使用したとして、シリアの空軍基地に対して行った巡航ミサイル攻撃だ。

「米国が対処すれば大量破壊兵器の使用を容赦しないという明確なシグナルになるだろう。ロシアも北朝鮮もあなたの出方を見ている」。ケロッグ氏はこうトランプ氏らに進言したという。数時間後、トランプ氏はマティス国防長官が提示した基地への限定攻撃を指示した。

「この行動で抑止の一線が確立された」とケロッグ氏は語り、力を行使する指導者の意思が抑止を形成するのだと強調する。

2期目のトランプ氏に「力による平和」の内実はあるのか。それがすぐに試されるのはウクライナだ。

トランプ氏はプーチン露大統領と即座に停戦交渉を開始するというが、具体的戦略は明言していない。プーチン氏はその前に占領地拡大の攻勢に出るはずだ。ウクライナが多大な譲歩を迫られるような交渉にトランプ氏は本気で動くのか。それとも、プーチン氏を慌てさせる「選択肢」を用意するのか。

ウクライナには「変貌」期待する声も

「トランプ氏が勝っても、目指すゴールは変わらない。われわれ自身を頼るしかない」

ウクライナ軍の男性兵士(26)は米大統領選を控えた今月4日、交流サイト(SNS)で筆者にこう書き送ってきた。この男性は東部ハリコフ郊外で任務に就いている。

2022年2月、ロシア軍がウクライナに全面侵攻した当日に陸軍に志願した。2年8カ月が過ぎ、露軍の砲撃は激しさを増している。「人々は落胆し、普通でない日常と長引く戦争に疲れ果てた」と男性は語る。

ウクライナの人々は、将来への不安感と重ね合わせて米大統領選の行方を注視した。男性によれば、発言が変わりやすく、プーチン露大統領との親密な関係を誇示するトランプ氏は「信用されていない」。ただ、「トランプ氏がロシアに強硬な態度へと変わることを期待する声も一部にある」という。

「トランプ氏は世界をかき乱す破壊力の持ち主だ」と語るのは国際政治学者のウォルター・ラッセル・ミード氏だ。トランプ氏の「予測不可能性」に期待する向きは多い。同盟国は予測困難なトランプ外交に何を期待するかより、自ら何ができるかを示すことが重要とミード氏は述べている。

5日の米大統領選で共和党候補のトランプ前大統領が勝利した。2期目のトランプ政権が米国と世界に与える影響を分析する。

(ワシントン 渡辺浩生)

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