トランプ氏が勝利した米大統領選の重要争点は不法移民問題だった。メキシコ国境から流入した不法移民は1100万人超といわれる。バイデン政権の移民政策に反対する国境沿いの州の共和党知事らは専用バスを仕立てて、民主党市長のニューヨーク市などに送り込み、同市が来年までの3年間に見込む移民の保護費は計120億ドル(約1兆8千億円)にのぼる。一時滞在先のホテルでの移民の振るまいも問題化、有権者は不満を募らせていた。
問題となっている「移民」はもともと、国境を徒歩などで渡ってきた不法入国者。拘束後に亡命(難民)認定申請し、決定が出るまで合法的に滞在できることから、移民に寛容な姿勢を示すバイデン民主党政権で激増した。移民を扱う裁判所はパンク状態で、難民申請者が最初の審理を受けるまでに平均4年かかるという。
業を煮やしたテキサス州などの国境沿いの共和党州知事らが移民をバスに乗せ、ニューヨークや首都ワシントン、シカゴなど民主党の選挙地盤へ送り込んだ。人口約850万人のニューヨーク市には2022年春から23年末までに16万人以上の移民が流入。市は対策に今後3年間で120億ドルが必要だと算定し、バイデン政権に支援を求めた。
一方、市は移民の一時滞在先として、マンハッタン中心部にある通常は1泊400ドル(当時のレートで約5万2千円)以上の四つ星ホテルの部屋を借り上げた。ところが、移民が市から無償提供を受けた食事を捨てたり、移民同士で暴力行為に及んだりしていることが明らかになり、「移民優遇」と反発を呼んだ。
バイデン大統領は、2021年の大統領就任初日にトランプ前大統領の看板政策だった「国境の壁」建設を中止するなど、「寛容な米国」を強調。だが、身内である民主党のニューヨーク市長らから突き上げを受けると難民申請の厳格化や国境の壁建設の再開へと軌道修正した。
今回の選挙戦で、トランプ氏は「不法移民を強制送還し、国境を閉鎖する」と主張して支持を広げたが、背景にはバイデン政権や民主党の弱腰な対応や、ぶれ続ける政策への批判があった。