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「関税は最も美しい言葉」トランプ氏の原風景は1980年代か 貿易戦争に身構える世界 「トランプ2.0」の衝撃④

産経ニュース 2024年11月11日 17時0分

米国のトランプ前大統領が返り咲きを決めた今、トランプ氏の大統領選中の発言が世界各地で波紋を広げている。

「タリフ(関税)、それは最も美しい言葉だ」

10月中旬、企業幹部らが集まった公開インタビューでこう発言したトランプ氏。別の会合では「ラブ(愛)よりも美しい言葉だと思う」とも語り、聴衆の笑いと拍手を誘った。

海外企業をこらしめる―。これがトランプ人気を支える要因の一つであり、大統領としての力の源泉でもある。

「関税男」を自称、普遍的基本関税も

「タリフマン(関税男)」を自称するトランプ氏は、2017~21年の1期目に各国への関税を上げることで経済的圧力をかけ、通商交渉を優位に進めた。

日本には日本車への追加関税をちらつかせ、市場の開放を要求。欧州連合(EU)とも貿易摩擦を引き起こした。中国に対しては大規模な制裁関税を発動し、中国も報復関税で対抗した。来年1月からの2期目では、中国やEUなどとの「貿易戦争」再燃が危惧されている。

トランプ氏は「普遍的基本関税」の導入を提唱している。同盟国である日本や欧州諸国も含めた全ての国からの輸入品に10~20%の関税を課すという内容で、米国市場に輸出している海外企業にとっては大打撃となる。メキシコから輸入する自動車には100%以上の関税を課す考えも示し、米国内に工場を移すよう企業に迫っている。

最大の競争国である中国に対しては60%を課すと主張。台湾に侵攻した場合、「150~200%」の関税を課すと米紙に述べた。中国のシンクタンクは「トランプ氏の発言は世界経済にとって脅威だ」と警戒する。

トランプ氏の狙いは高い関税をかけることで、雇用と生産拠点を米国内に取り戻すことにある。「ぼったくり」をしてくる外国には、「目には目を」の精神で対処する―。同氏の主張はある意味で明快ともいえる。

ロックフェラー・センター買収の衝撃

執着にも似たトランプ氏の関税への思い入れは何に由来するのか。米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は、1980年代に日本企業が続々と米国内で勢力を伸ばし、「ソニーのウォークマンやトヨタの車が米国を埋め尽くした」ことがトランプ氏の原風景だと指摘する。

特にニューヨークの不動産王だったトランプ氏にとって象徴的に映ったのが、89年の三菱地所によるロックフェラー・センターの買収だった。トランプ氏は当時台頭していた日本に脅威を覚え、「(日本製の)車や電化製品に20%の関税をかけるべきだ」と主張していたという。

一方で、関税を巡る一連の発言はトランプ流「ディール(取引)」の一環だとみる向きも多い。相手国から別の形で利益を引き出すための交渉術である。

というのも、関税は輸入する米国内の企業が負担する。トランプ氏の主張通り高関税をかければ、米国内の製品価格に転嫁され、物価が上昇すると考えられるからだ。

価格転嫁で消費者の負担増

米ピーターソン国際経済研究所の調査では、米国の一般的な世帯に年間2600ドル(約40万円)超の追加負担がかかる恐れがある。実行されれば自国の経済不安が加速し、国民からの反発が強まりかねない。

だが、各国が懸念を深めているのは、トランプ氏ならそれでもやりかねない…という先行きの読めなさのためだ。

トランプ氏は諸外国が「まさか」と思う中で、「自国第一」主義の名の下に国際協調をほごにしてきた前歴を持つ。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)から離脱し、一時は世界貿易機関(WTO)からの脱退も口にした。米国主導のインド太平洋経済枠組み(IPEF)にも不支持を表明。2国間交渉を重視し、多国間の枠組みには興味がないことの表れだ。

EUは米国への報復関税をかける物品リストを準備。各国は「トランプ2・0」の経済的リスクに備えている。国際通貨基金(IMF)は英BBC放送の取材に対し、「大規模な貿易戦争が再発すれば、世界経済の7%に打撃を与える可能性がある。これは仏独の経済規模を合わせた額だ」と指摘する。

世界経済の波乱要因としては、関税だけでなく、トランプ氏の外交・安全保障政策も不安視されている。

英調査会社オックスフォード・エコノミクスは「『トランプ2・0』の政策が以前と同様に予測不可能であれば、中東紛争が激化する可能性を否定できず、原油市場にも大きく波及するだろう」との見方を示す。その上で、「中東とウクライナのさらなる不安定化は、世界の経済成長に打撃を与える恐れがある」と警鐘を鳴らしている。(ワシントン 本間英士)

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