米大統領選で共和党のトランプ前大統領が当選を確実にしたことを受け、兼原信克元国家安全保障局次長は6日、来年1月の大統領就任後から半年程度かかるとみられる「政権の布陣を見極めていくことが重要になる」と指摘。前嶋和弘上智大教授は2年後の中間選挙を見越し、内政では「議会の動向が鍵を握る」と話した。
兼原信克元国家安全保障局次長
米大統領選は米国の大衆劇場型政治を世界に印象付けた。トランプ前大統領は低所得層や保守層の票を掘り起こした。関税を引き上げ、移民流入を阻止し、米国民を守ると訴え有権者の心をつかんだ。ただ、こうした政策はインフレ圧力となり、実行すれば米経済に打撃となるだろう。
ロシアによるウクライナ侵略やガザ情勢への対応は重要だ。一方で、米国防総省の関心は既に、中国による台湾侵攻の可能性に備えることに移っている。
日本は5年間で43兆円の防衛予算を確保する方針だが、年間130兆円超を国防費にかける米国のトランプ氏の目にどう映るか。円安の影響で目減りしているとして、増額を求める可能性もある。
石破茂首相は重要閣僚や自民党役員に防衛相経験者を起用するなど、防衛を強みとする政治家だ。防衛費を着実に増やし、日米同盟を強化する意思をトランプ氏に示し、強固な信頼関係を築くことが急務だ。
第1次トランプ政権では、対中政策の転換や、イスラエルと一部のアラブ諸国の国交正常化を仲介したことへの評価が高い。こうした実績は、側近たちの役割が大きかった。来年1月にトランプ氏が就任しても、各省の幹部の顔ぶれが固まるまで半年程度かかるだろう。政権の布陣を見極めていくことが重要になる。
前嶋和弘上智大教授
今回の選挙戦は未曽有の僅差で争われたが、トランプ前大統領が自身の岩盤支持層を固めて逃げ切った。
政策面では大きな変化があると考えられる。ただ、第1次トランプ、バイデン両政権とも、中間選挙後は大統領の所属政党と議会の多数派がねじれて「分割政府」となり、動きが取れない状態が続いた。今後の議会の動向が鍵を握る。
他方、外交・安全保障は米軍最高司令官としての裁量が大きい。米国第一主義を掲げるトランプ氏は、対中関係や台湾問題でも関税を使う〝取引〟で対応していくだろう。だが、高関税がインフレを引き起こし抑制のため利上げされれば、ドル高に振れる可能性がある。経済の失速要因となるため、トランプ氏がドル高を牽制する「口先介入」もあり得るだろう。
トランプ外交は先が読みにくい。トランプ氏自身は「米国第一」というものの、同盟国に駐留する米軍の撤退を主張しているわけではない。陣営内には日米同盟の強化が米国の利益だとする意見もあれば、日本に対し、防衛費の国内総生産(GDP)比3%への増額を求めるべきだとの声もある。そうなれば、米国製防衛装備品のさらなる購入を迫ることが予想される。
日本側は、強固な日米同盟が対中政策でも米国の利益に合致すると説得し、原理原則を説明していくことが大切だ。
(聞き手 岡田美月)