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米酪農場で鳥インフル感染拡大 「政府に反感」米国人の頑迷さが大流行の原因にも

産経ニュース 2024年7月15日 13時0分

米国の酪農場で春先から高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1型に感染した乳牛や労働者の報告が相次ぎ、バイデン政権は今月、ワクチン開発を支援するため米モデルナ社に1億7600万ドル(約268億円)を拠出すると発表した。新たなパンデミック(世界的大流行)への備えだが、人への感染拡大の実態を把握するための米政府主導の調査には「障壁」があり、十分に進んでいない。

パンデミック警戒、ワクチン開発支援

米国では今年3月以降、12州で乳牛など家畜の感染が確認された。米疾病対策センター(CDC)は5月、南部テキサス州の酪農場で、乳牛との接触で感染したとみられる労働者が確認されたと発表。「人以外の哺乳類から人に感染した世界初の報告例」とみられている。

乳牛が感染した酪農場での患者は、その後も中西部ミシガン州で2人、西部コロラド州で1人がそれぞれ確認され、今月8日時点で計4人となった。いずれも軽症で、抗ウイルス薬の服用などで回復している。

ウイルスがパンデミックを起こすには、①人に簡単に感染する能力を獲得すること②人から人へ簡単に感染すること③重大な病気を引き起こすこと-が必要とされる。

パンデミック発生時に人にどんな症状が現れるかは不明だ。感染牛の死亡例は少ない。ただ、ウイルスに汚染された生乳を飲んだ畜舎の猫の中には、失明や脳腫脹(しゅちょう)に苦しみ、死亡したケースがあった。また、マウスを使った実験では、呼吸器でウイルスが検出される度合いが高かったという。

人の感染実態を把握する難しさ

これまでの感染者は酪農関係者。CDCは「現時点で一般の人の感染リスクは低い」としているが、感染した動物や乳、ふんなどに触れる場合はリスクが大きくなると注意を喚起した。

ただ、人への感染は報告された以上に広がっている可能性がある。無症状で感染に気づかないケースが想定されるものの、各州で「病気の牛に接触した人の検査はほとんど行われていない」(ロイター通信)ためだ。

米国の公衆衛生対応で中心的な役割を担うのは州や地方レベルの政府。連邦レベルで義務づけられているのは現在、州境を越えて移動する牛の検査だけだという。

CDCは人の感染実態を把握するため、米農務省と連携し、酪農場に調査協力を求めている。ただ、米科学ジャーナリストのマギー・フォックス氏は「成功例は限られている」と指摘する。6月2日付の米科学誌サイエンティフィック・アメリカン(電子版)に寄せた論考によると、酪農家たちは、ウイルスが見つかった場合の風評被害や、雇用している外国人労働者の不法就労発覚を恐れているようだ。

実態把握が遅れる別の要因として、複数の専門家が新型コロナウイルス禍を機に顕著となった「米政府機関に対する信頼の低下」を指摘している。

当局呼びかけに反して生乳の売り上げ急増

それどころか、殺菌処理をしていない生乳からウイルスが検出されたとして、米食品医薬品局(FDA)が生乳を避けるよう消費者に呼びかけた際は、直後に生乳の売り上げが急増するという逆転現象まで起きた。コロナ禍でマスク着用やワクチン接種を推進した米政府機関やバイデン政権に「反感」を抱いた層が、売り上げを押し上げた可能性がある。

健康志向の強い自然食品愛好家の中には、「生乳が身体に良い」という間違った情報を信じ込んでいる人がいる。交流サイトで「鳥インフルエンザにかからないために生乳を飲みましょう」と誤情報を発信するアカウントも少なくない。CDCの「生乳を飲む人は、口、喉、鼻、肺を通じてウイルスに感染する理論上の可能性がある」という警告は、浸透しづらい状況だ。

フォックス氏は先の論考で「米国人は指図されるのが嫌いで、政府を信用しない人が多い」と解説。頑迷な態度が「鳥インフルエンザの世界的大流行をもたらすかもしれない」と指摘した。(ニューヨーク 平田雄介)

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