米マクドナルドが多様性確保に向けた目標を廃止することを明らかにした。米国では職場での女性やLGBT(性的少数者)への配慮が行き過ぎではないかとの声が広がりつつあり、日系企業も対応を迫られている。「ポリティカルコレクトネス(政治的公正)」への反動の表れといえ、見直しの動きは20日のトランプ次期政権発足を受け、加速する可能性がある。
幹部登用の「数値目標」取り下げ
マクドナルドは6日の声明で、同社は企業の多様性に関する「外部調査」への参加を取りやめると表明。外部の事業者に対し、少数派の権利向上を目指す取り組み「多様性・公平性・包括性(DEI)」の目標達成を求める誓約を廃止することも明らかにした。
また管理職に占める女性比率を45%、人種・性的少数者の比率を35%に引き上げることなどを掲げていたが、取りやめる。
マクドナルドは2021年に多様性などに関する推進策を発表。当時、従業員が同僚からセクハラ被害を受けたとして、同社に対する訴訟が相次いだことが推進の背景にあった。
ケンプチンスキー最高経営責任者(CEO)は、推進策導入当初、「公平な機会を与えられていないと感じている人たちがいると認めなければいけない」と述べ、DEI推進の意義を協調していた。
多様性に関する意識に変化
米社会で多様性推進に向けた企業の取り組みに関する受け止めは変わり始めており、行き過ぎた配慮への反発が漂っている。
米調査機関ピュー・リサーチ・センターが行った世論調査によると、勤務先がDEI推進に注意を払いすぎていると思うかとの質問に対し、23年の前回調査では、「払いすぎ(14%)」と「全然払っていない(15%)」が拮抗(きっこう)していた。ところが、24年の調査では、「払いすぎ(19%)」が「全然払っていない(12%)」を上回った。
これまで米証券取引所ナスダックや小売り最大手ウォルマート、航空宇宙大手ボーイングなどがDEIの取り組みを見直すことを決定した。
米国で事業を展開する日系企業も対応に迫られている。日産やトヨタ自動車は、性的少数者への職場での対応を評価する「企業平等指数」への参加を中止した。両社は性的少数者を支援するイベントへの資金提供も取りやめている。
マスク氏「DEIはプロパガンダ」
トランプ新政権は総じてDEIに対して懐疑的で、トランプ氏自身、大統領選の選挙運動期間中、当選後にDEIの取り組みに対する政府の支出を削減すると公言している。
次期政権を支える主要メンバーの中でも、少数派を積極登用する企業の取り組みに対する反発が根強い。スティーブン・ミラー次期大統領次席補佐官(政策担当)は、企業が非白人を不当に優遇したなどとして、DEI推進策に異論を唱えてきた。次期副大統領のJ・D・バンス上院議員は24年夏、多様性などを推進する連邦政府のプログラムを廃止するための法案を議会に提出した経緯がある。
次期政権の政府外の新組織「政府効率化省」を率いる予定の実業家、イーロン・マスク氏も「DEIはプロパガンダ」と批判している。揺り戻しの動きは強まることが予想され、企業は対応に追われそうだ。(岡田美月)