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声優が「AI声優」の規制求める 米エンタメ業界でスト再燃、「雇用が失われる」

産経ニュース 2024年9月8日 8時0分

米国のエンターテインメント業界で、生成人工知能(AI)への規制を求めるストライキが再燃している。今回ストを行ったのは、ゲームに出演する声優ら。自分たちの声を無許可で再現した「AI声優」によって雇用が失われるリスクを強く危惧。利用の制限などを求めて7月からストを実施し、今月5日には一部の制作中のゲーム作品との間で、AI利用を制限する暫定合意を締結した。危機感の高まりを受け、州議会などでは法整備の機運も高まりつつある。

「同意も報酬もない」

今回のストの主体は、昨年の大規模ストを実行した「映画俳優組合―米テレビ・ラジオ芸術家連盟」(SAG―AFTRA)に加入するゲーム声優や、モーションキャプチャー(現実の人の動きをデジタル化する技術)の演者だ。

声優らは、「生成AIは自分たちの仕事を脅かしている」として「AI声優」の台頭を危惧している。組合側はゲーム会社に対して生成AIの使用制限や、声優らへの適切な報酬の支払いなどを求めてきた。

だが、数カ月に及んだ交渉は決裂。組合側は7月下旬にストを通告し、8月に米西部カリフォルニア州のワーナー・ブラサース・ゲームズやウォルト・ディズニー・スタジオの前でピケを張った。

ストを牽引(けんいん)する声優のリアンナ・アルバニージーさんはロイター通信に対し、「ゲーム会社が使用する(AI声優の)声のモデルは、私たちの同意も報酬もなしに、私たちの声を元に生成したものだ」と主張。生成AIは「脅威」であると強調した。アルバニージーさんは日本のゲーム「ペルソナ5 タクティカ」(英語版)のエル役などを務める。

組合は今月5日、80作品のゲームとAI利用に関する暫定合意を締結したと発表。AIによる声の「搾取的利用」からの保護や賃金面の改善などを保証した。一方、AP通信によると、ワーナーやディズニーなど大手企業に対するストは今後も継続するという。

有名ハリウッド女優もトラブルに

米オープンAIが2022年に文章を自動で作成する「チャットGPT」を発表して以降、生成AIの急成長が続いている。

同社は今年2月、入力された文章からリアルな動画を生成する「Sora(ソラ)」を発表。長年テレビ業界で働く映像編集者は米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)に対し、生成AIによって「労働日数の3分の1が削減できる」と話す一方で、「自分の仕事は近いうちになくなるかもしれない」と懸念した。

ただ、AI関連のトラブルも相次ぐ。今年5月には米女優のスカーレット・ヨハンソンさんがチャットGPTの音声機能をめぐり、「自分に似た声が使われた」として同社に抗議した。ヨハンソンさんは13年のSF恋愛映画「her」で、主人公の男性が恋に落ちるAIの声を担当していた。オープンAIはこの音声利用を否定しているが、ヨハンソンさんは「不気味なほど似ている」と語る。

ハイテク企業は「過剰な規制」反対

問題の核心は技術革新が急速に進む一方で、クリエーターを守る環境整備が追いついていない点にある。

米国では昨年、脚本家(全米脚本家組合)と俳優(SAG―AFTRA)が63年ぶりとなる異例の同時ストを実施。クリエーターの不利益軽減を目的とする生成AIの利用制限や、適切な報酬の支払いなどで制作会社側と合意した。

とはいえ、ゲーム声優をはじめこの種の合意にまだ達していない職種は多く、アニメーターも「大きなAIの脅威に直面している」(NYT)という。

高まる雇用への不安を受け、無許可のAI利用からクリエーターを守るための法整備も始まりつつある。

米紙ロサンゼルス・タイムズ(電子版)などによると、カリフォルニア州議会は8月末、俳優や声優らを守るための生成AIの利用を制限する法案を圧倒的多数で可決。成立した場合、本人などの同意がなければ制作会社側はAIが生成した声や肖像などを利用できなくなる。ただ、一部のハイテク企業はこの法案を「過剰な規制」などとして反対している。

連邦議会でも、本人の同意なしに声や肖像を再現する作品の作成を禁じるための法整備の動きが進んでいる。(本間英士)

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