【ワシントン=大内清】米大統領選で勝利した共和党のトランプ前大統領(78)は「米国は侵略を受けている」とのメッセージを選挙戦の中核に据え、1100万人を超すとされる不法移民の大量送還を主張してきた。すでに米労働市場の一部となっている不法移民を排除することの影響は大きい。強化するとしている外国製品への関税もインフレ圧力になるとの見方が強い。
「国境を封鎖し不法移民の侵略を止める」。トランプ氏は自ら執筆に関与した共和党の政策綱領の筆頭にこう記した。選挙戦では「犯罪者や精神異常者が米国に送り込まれている」とし、「黒人の仕事が奪われている」とも主張した。有権者の不安を刺激する手法は、初当選した2016年大統領選から変わらない。
米国勢調査局のデータによると、ビザ(査証)などの正規の資格を持たない外国人は労働人口全体の約5%を占める。多くは低賃金の建設業やサービス業の従事者だ。
シンクタンク「米国移民問題評議会」は、そうした人々を実際に拘束・送還するには少なくとも3150億ドル(約48兆円)のコストがかかると試算。建設業への打撃は避けられず、国内のあらゆる建設事業が停滞する恐れがあると警告する。
トランプ氏は、公約のもう一つの柱として、中国製品に60%、その他のすべての外国製品に10~20%の関税を課すとした。「米国内で売りたければ米国内で製造しろ」との主張だが、実行に移せば消費者への価格転嫁で実質的な増税につながるとの見方が強い。選挙戦で民主党候補のハリス副大統領(60)は、トランプ氏の案は一般的な世帯で年4000ドルの負担増になると批判した。
また、報復関税の応酬となれば、中国を主な輸出先とする農家への打撃となるほか、米国を回避するサプライチェーン(供給網)の再編が進むとの見方もある。