【ニューヨーク=本間英士】トランプ米大統領が「多様性・公平性・包括性(DEI)」政策の見直しを進めている。DEIは少数派の権利向上を目指す活動で、バイデン前大統領ら過去の民主党政権が推進してきた。だが、多様性への配慮が「行き過ぎだ」として是正を求める声が水面下で拡大。トランプ氏の就任後、反発が一気に広がっている。
特定の人種を「優遇」
「破壊的で分断を生むDEIの強制をやめる。政府と民間のすべてで、米国を実力主義に戻す」
1月19日の就任前日、ワシントンで開かれた支持者向けの集会でトランプ氏がこう宣言すると、会場から歓声がわいた。
米国では民主党のオバマ政権が誕生した2009年ごろから、人種間などの格差を是正する社会的風潮が強まった。20年に起きた白人警官による黒人男性の暴行死事件を受け、流れは加速した。
21年に就任したバイデン氏も先住民や同性愛者を初めて主要閣僚に起用するなど、人種・性的少数者の権利を擁護。政府方針を受け、各企業も特定の人種などが有利となる採用活動を進めた。米マクドナルドの場合、管理職に占める人種・性的少数者の比率を35%に引き上げる目標を掲げた。
費用対効果への疑念も
一方、急速な社会の変化を受け反発も強まった。ニューヨーク在住の白人の男子大学生(22)は「今の米国では多様性への配慮が行き過ぎている。トランプ氏はただそれを是正しようとしているだけだ」と強調する。
風向きが変わったのは23年6月。学生団体がハーバード大などの入学選考で「アジア系が差別され、合格率が不当に低い」と訴えたことに対し、連邦最高裁は黒人や中南米系など特定の人種を優遇するのは「法の下の平等」に反し、違憲だと判断した。
その後、特定の人種や性別への優遇を「行き過ぎたリベラル化」「実力主義と反する」とする批判が保守派の間で噴出。トランプ氏支持者を中心に、DEI推進企業への不買運動も拡大した。
企業間では訴訟リスクに加えて費用対効果への疑念も生まれた。昨年11月の大統領選でトランプ氏が勝利した後、マクドナルドや小売り大手のウォルマート、IT大手のメタなどは相次いで取り組みの縮小や廃止を発表した。
加速する「反DEI」
トランプ政権は就任直後から「反DEI」の動きを加速している。
各省庁に対しては、民間企業によるDEI推進の停止を促すよう命じる大統領令に署名。関連部署の閉鎖も指示した。
反DEIの動きは米軍にも向かう。心と体の性が一致しないトランスジェンダーの存在が軍の即応性や部隊の結束を損なうとして、トランプ氏は「米軍からトランスジェンダーの思想を徹底的に排除する」と宣言。ヘグセス国防長官も2月7日、「軍事史上最も愚かな言葉は『多様性は私たちの強さ』だ」と語った。
国民の3分の1が否定
DEIを巡る米世論は割れている。CBSニュースが1月中旬に実施した世論調査によると、DEIのさらなる推進を求める人は39%、現状維持を望む人は27%。他方、終了を求める人も34%に上り、米国民の3分の1が否定的な立場を取る。
米紙ニューヨーク・タイムズは「多種多様な人材を活用するというバイデン前政権の決断は、米国に良い結果をもたらした」と強調。小売り大手コストコなどDEI推進を維持する企業もある。
一方、米紙ウォールストリート・ジャーナルは「米国民は争いのもとになるDEIのイデオロギーにうんざりしている」と指摘。DEIの推進が「違法な差別や優遇」につながる可能性を示唆した上で、停止を決めたトランプ氏の判断について「賢明だ」とした。