【台北=西見由章】台湾の頼清徳総統は20日、就任から半年を迎えた。頼氏は「台湾独立」論を封印し蔡英文前総統の現状維持路線を継続する一方、台湾を中国の一部とする中国側の「一つの中国」原則を認めず、統一に反対する立場を明確に発信してきた。中国に忖度(そんたく)しない「モノ言う」姿勢は、台湾の主流世論の支持を得ている。
7割超が主張支持
頼氏は5月20日の就任演説で「中華民国(台湾)と中華人民共和国(中国)は互いに隷属していない」と強調。以降、演説などの場で「中華人民共和国は(より歴史が長い)中華民国の人々の祖国には絶対になり得ない」、「中華人民共和国に台湾を代表する権利はない」などと中国による統一主張に反論してきた。中国を刺激する発言を控えた蔡氏との違いは際立つ。
「なぜ愛琿(あいぐん)条約でロシアに占有された土地を取り戻さないのか」。台湾を巡って「領土回復」を掲げながら、清朝末期にロシアに割譲した広大な領土を取り戻そうとしない中国の二重基準を突いたこともあった。
最大野党の中国国民党は「中国を刺激する」と頼氏を批判するが、頼氏の発言はただの放言ではなく巧妙に計算されている。与党の民主進歩党支持者が距離を置く「中華民国」という概念を前面に出し、「台湾独立」に否定的な中間層や国民党の支持者を取り込む狙いだ。少数与党で厳しい政権運営を強いられていることも背景にある。
台湾師範大の范世平教授は「頼氏の一連の発言は国際的な注目を集め、しかも台湾の主流民意が支持している。米国も、頼氏が中国を刺激しているとは認識していない」と指摘する。
民間シンクタンクの台湾民意基金会が10月に実施した世論調査によると、「中華人民共和国に台湾を代表する権利はない」との頼氏の主張は7割超が支持。頼氏の政権運営は支持が48・6%で、不支持の37・7%を上回った。国民党支持者も25%が頼氏の政権運営を評価し、「中華民国」発言の好影響がうかがえた。
高まる「疑米論」
ただ、頼政権の前途は多難だ。11月中旬に行われた最新調査では、頼氏の支持率は42・8%と急落し、逆に不支持率が43・0%に上昇して支持率を逆転した。
最新調査は米大統領選でトランプ前大統領が当選した直後に行われた。中国が台湾侵攻に踏み切った場合、トランプ政権による米軍の派兵を「信じない」と回答したのは57・2%で、「信じる」の29・8%を大きく上回った。こうした「疑米論」の高まりが、親米路線の頼政権の支持率に影響した可能性もある。
「中国が今後も台米の離間に向けて世論操作をしかけてくる」(台湾当局者)状況の中で、「米国第一」を掲げるトランプ政権との関係が不安定化すれば、台湾の主流世論に疑米論が広がるのは避けられない。これから頼政権の真価が問われることになる。