トランプ米大統領が全面的な機密指定解除を命じた1963年のジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件に関する未公開資料が注目を集めている。米政府の調査委員会は逮捕後に死亡した青年の単独犯と断定したが、事件の背景を巡る陰謀論は今も根強い。
「すべてが明らかになる。それは大きなことだ」。トランプ氏は先月23日、ホワイトハウスの執務室で記者団を前にこう語り、ケネディ氏暗殺に関する機密資料をすべて公開する計画を15日以内に作るよう指示する大統領令に署名した。
CIA関与、宇宙人の仕業… 渦巻く陰謀論
ケネディ氏は大統領在任中の1963年11月22日、南部テキサス州ダラスで遊説のためパレード中に狙撃され、46歳の若さで亡くなった。直後に逮捕された元海兵隊員のオズワルド(当時24歳)は2日後、刑務所へ移送中に暴漢に銃撃され、死亡した。
事件が国民に与えた衝撃は大きく、「CIA(中央情報局)関与説」や「軍産複合体黒幕説」「宇宙人の仕業」など様々な陰謀論が生まれた。当時は米ソ冷戦の真っただ中で、ソ連(現ロシア)やキューバの関与を疑う声もある。全資料の公開が事件に関する冷静な議論の進展と真相究明に役立つのは間違いない。
米国立公文書記録管理局によると、ケネディ氏暗殺に関する記録は約500万ページ。2022年12月時点で97%以上が公開されている一方、安全保障上の理由などで機密指定されている未公開の記録が数千点残っている。
トランプ氏、1期目は全面公開見送り
もっとも、今回の大統領令が「すぐに新事実の発掘につながる」と期待する研究者は少ない。未公開資料の多くは秘匿性の高い任務を常とするCIAに絡む文書とされているからだ。
トランプ氏は2017~21年の1期目の大統領在任時にも公開を唱えたが、CIAとFBI(連邦捜査局)の助言を入れて一部公開に止めた経緯がある。今回も慎重な検討が必要で、大統領令も公開時期を明示していない。
ただ、昨年の大統領選の活動中に狙撃され、自ら暗殺未遂事件の被害者となったトランプ氏の「真相究明」への思いは1期目より強そうだ。
大統領令は「遺族と国民は真実を知るに値する。すべての記録を遅滞なく公開することは国益にかなうことである」と記す。
暗殺を憎む気持ちが生む絆
トランプ氏は大統領令の署名に使ったペンを、ケネディ氏の甥で、自ら新政権の厚生長官に指名したロバート・ケネディ・ジュニア氏に贈るよう側近に命じた。
ジュニア氏は、ケネディ氏に加えて、実父のロバート・ケネディ元司法長官を1968年6月に暗殺事件で失った。大統領令について、「政府が国民に真実を語るという約束を守っている」とトランプ氏に感謝している。
ジュニア氏は昨年の大統領選で民主党候補指名争いに参戦していたが、トランプ氏支持に転じ、民主党支持層や無党派層の切り崩しに貢献した。厚生長官への指名は〝論功行賞〟とみられているが、今回の大統領令は卑劣な暗殺を憎む2人の心理的な絆を浮き彫りにした形だ。
大統領令は、ケネディ元司法長官と68年4月に暗殺された公民権運動の指導者キング牧師に関する未公開資料についても全て公開する計画を45日以内に示すよう関係当局に命じている。(平田雄介)