地雷や不発弾の被害が後を絶たない。1999年に発効した対人地雷禁止条約(オタワ条約)の検討会議は2025年までの地雷全廃を目指してきたが、世界の死傷者数は23年に前年比で約2割も増加。ロシアのウクライナ侵略やミャンマーの内戦で新たな使用が確認され、条約が目指す「地雷なき世界」には程遠い状況だ。そんな中、日本は地雷対策で協力するカンボジアと「国際協力チーム」を結成し、被害に苦しむ第三国支援を本格させる。
米、ウクライナ支援で対人地雷供与
「新たな武力紛争で地雷が使用され、深い憂慮を抱いている」。11月下旬にカンボジア北西部シエムレアプで開かれたオタワ条約の第5回再検討会議。今後5年間での地雷廃絶への行動計画を定めた「シエムレアプ宣言」が採択され、条約が目指す「地雷なき世界」とは逆行する世界情勢に危機感を示した。
会議では、非締約国の米国やロシアを念頭に、世界各国にあらゆる地雷の使用を禁止し、国際人道法を順守するよう求めた。また一部の国からは、米政府が11月にウクライナに対人地雷を供与し、対ロシアでの使用を容認したことに疑問の声も上がった。
共同声明はウクライナのような締約国が地雷を受け取るのは条約違反だとし、「条約発効以来、かつてない挑戦に直面している」と懸念を表明した。一方、ウクライナの代表は「現時点で義務の実行は不可能」と説明。地雷破棄は露軍の攻撃が停止し、領土が回復した後になると強調した。
19年に開かれた前回のオタワ条約再検討会議は、行動計画で「25年までの対人地雷被害ゼロ」を掲げた。だが継続使用する国は後を絶たず、ロシアに近いフィンランドやバルト三国(リトアニア、エストニア、ラトビア)では防衛兵器としての地雷の必要性が議論され、条約離脱も検討している。世界は条約の目標とは程遠い状況にある。
地雷対策資金が史上最高に
非政府組織「地雷禁止国際キャンペーン」(ICBL)が11月20日に発表した「ランドマインモニター報告書」によると、23年時点で58の国・地域が地雷に汚染され、前年比22%増の計5757人が死傷した。世界で地雷対策に要した資金は史上最高の10億ドル(約1500億円)を超えた。
死傷者数は国別で、国軍がクーデターで実権を握ったミャンマーが前年1位のシリアを抜いて最大となった。また、10位以内に4カ国が入ったアフリカでの被害が増加。コロンビア、インド、パキスタン、パレスチナ自治区ガザ、アフリカなどで「非政府武装集団」の使用が確認された。
ICBLは報告書で「いかなる状況下でも地雷使用は容認できない。オタワ条約に全ての国が参加し、卑劣な兵器の苦しみを終わらせるべきだ」と訴えた。だが地雷は安価で有用な兵器として使われ続けているのが現状で、資金や技術、人材の不足で除去が進まない国も少なくない。
AIを利用した探知システム開発
地雷被害に苦しむ国々への支援拡大に動いたのが日本とカンボジアだ。このほど第三国支援のための「国際協力チーム」を立ち上げ、来年から本格化させる。
カンボジアは1970年から20年以上に及んだ内戦で、全土に400万~600万個の地雷が埋設されたとされる世界最大の被害国の一つ。日本は90年代から地雷対策をサポートしてきた。
上川陽子外相(当時)は今年7月、プノンペンのカンボジア地雷対策センター(CMAC)を訪問。「日カンボジア地雷イニシアチブ」を発表し、両国が協力して「地雷被害なき世界」を目指す方針を示していた。
この指針には、国際協力チーム創設や被害国への共同支援、AI(人工知能)を使った次世代地雷探知システムの開発が盛り込まれた。同システムは地雷敷設エリアを約90%の確率で予測できる高精度なもの。NECが開発に関わり、実用化を目指している。
CMACは2009年以降、日本の協力の下、すでにコロンビアやラオス、イラクなど9カ国に地雷対策研修を実施。自国の除去作業に終わりが見え始めたことを受け、来年から国際組織に移行し、長年のパートナーの日本と国際支援を強化する流れとなった。
問われる日本のリーダーシップ
日本とカンボジアは昨年、ロシアの侵略が続くウクライナへの支援も始めた。日本は地中地雷を可視化できるレーダー付き日本製地雷探知機「ALIS」や日系メーカーの除去機を供与し、CMAC職員とカンボジアでウクライナ側に研修も行った。
日本の国際協力機構(JICA)の小向絵理・国際協力専門員は「カンボジアのような(地雷被害の)当事国が他の被害国を支援する例はあまりない」と意義を語る。地雷除去には息の長い対応が必要で、「被害国自らが問題解決能力を身につける姿勢が欠かせない。カンボジアの知見は他国でも参考になるはずだ」と訴える。
日本は25年、ウクライナの地雷除去に関する国際会議やオタワ条約第22回締約国会議の議長国でもある。条約締約国は17年以降増えておらず、成果を出すための日本のリーダーシップが問われそうだ。(桑村朋)