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人食いオオカミの恐怖におびえる人々 洪水ですみかを追われたか、人間への復讐説も 世界行動学

産経ニュース 2024年9月25日 7時0分

童話「赤ずきん」に登場するオオカミは、悪辣(あくらつ)な人食いオオカミである。だが、実際にオオカミが人間を襲って食べるということは、ほとんどないそうだ。

それが最近、インドで人食いオオカミが出没し、村の人々が恐怖に包まれている事件が起きているという。以前、この連載でインド北部ウッタルプラデシュ州に現れた人食いトラの話を紹介したことがあるが、今回の脅威はオオカミだ。

現場は、同州のネパール国境に近い地域にある。インディアン・エクスプレス紙によると、7月17日から9月2日にかけて、オオカミの群れが日没後、35の村で次々に住民を襲い、子供7人を含む8人が殺害された。2歳の少女はドアのないレンガ造りの家の中で母親と一緒に寝ていたところを連れ去られ、近くのサトウキビ畑でバラバラになった遺体として発見された。

地元森林局は大規模なオオカミ捕獲作戦に乗り出した。熱感知カメラを備えた数機のドローン(無人機)を駆使して、付近に生息する複数のオオカミを発見。ネットやおり、オオカミをおびき寄せるための子供に似せた人形などを「戦略的に」設置した。数匹が捕獲され、動物園へ送られたり、捕獲によるストレスで死んだりしている。

人々が首をかしげるのは、通常、人間を襲わないオオカミが、なぜ童話の世界のように人肉を食べるようになったのかだ。

英BBC放送(電子版)によると、オオカミが人間を襲うケースのほとんどは狂犬病に感染した場合だ。ノルウェー自然研究所がまとめた2002年~22年のオオカミの襲撃に関する報告書によれば、インドを含む21カ国でオオカミによる襲撃例らしいものが479件あったが、このうち死亡例はわずか26件で、インドでの発生が4件だった。

インディアン・エクスプレス紙とBBCはいずれも、豪雨による洪水の影響でオオカミが本来の生息域を追われたのが原因とみる専門家の意見を伝えている。動物の獲物が得られなくなり、人間を襲ってその味をおぼえてしまったというのだ。そうであれば、地球温暖化がオオカミの行動に何らかの影響を与えてしまったのかもしれない。

一方、オオカミによる「復讐(ふくしゅう)説」を唱える専門家もいる。同州のドゥドワ国立公園元園長は、インドのニュースサイト、ニュース18に、「オオカミは最も知能が高い動物で、他の肉食動物とは異なり復讐する性癖がある」と話す。州内では1996年にオオカミが人間の子供たちを襲う事件があったが、農民が洞窟でオオカミの子供たちを見つけ、恐れるあまり火の中に投げ込んでオオカミを怒らせた後に起きた。2003年には、農民にすみかを破壊されたオオカミが、やはり人間の子供を標的にするようになった事案が報告されているという。

この見方が正しければ、人間が野生動物にむやみに接触することは危険だということの証左となる。(インド太平洋特派員 岩田智雄)

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