オーストラリアのアルバニージー政権が16歳未満の交流サイト(SNS)の利用を禁止する法案を議会に提出した。年内に可決される見通し。暴力や自殺、いじめなど「有害な投稿」から子供を守るのが目的で、対策を講じなかった運営企業に罰金を科す。年齢認証など課題も多いが、未成年が犯罪に巻き込まれるなどSNS対策が世界的課題となる中、豪州の踏み込んだ対応は海外に波及する可能性がある。(石川有紀)
「世界に先駆け」
豪政府が21日に提出した法案では、運営企業にアカウント作成の際の厳格な年齢確認を義務付けている。16歳未満による接続を防ぐための「合理的な措置」を取らなかった場合、最大4950万豪ドル(約50億円)の制裁金を科す。子供や保護者ら個人に罰則はない。
禁止対象のSNSは、TikTok(ティックトック)やインスタグラム、X(旧ツイッター)など。メッセージアプリやゲーム、教育関連サービスは除外された。動画投稿サイトのユーチューブも教育支援の機能があるとして対象外となった。
豪政府は、SNSの「利用禁止」に踏み込んだ同法を「世界に先駆けた法律」と自負する。アルバニージー首相は会見で「SNS企業に行動を改めるようメッセージを送る」と強調した。
課題となるのが、利用者の年齢をどう確認するかだ。認証技術は確立されていないが、現地メディアによると、豪政府は新技術開発のため英国企業を指名。6カ月の試験運用の間、どういった年齢確認方法がふさわしいか検討する予定だ。
政府「介入」に賛成
豪州が踏み込んだ対応に出たのは、SNS運営企業への不信感がありそうだ。
今年、豪州のインターネット規制当局は4月に起きた少年による教会襲撃事件の映像の削除をSNS各社に要請したが、Xは豪国内からの閲覧を遮断したのみで、世界での削除を拒否した。当局が起こした削除を巡る訴訟でも、X側は「世界的な削除要請は、自由でオープンなインターネットの原則に反し、表現の自由を脅かす」などと譲らなかった。
国内では禁止を支持する声が強い。豪公共放送ABCなどの8月の世論調査によると、政府が青少年のSNS利用を禁止すべきと答えた人は61%に上った。また、規制当局がコンテンツ削除を命じる権限を持つことに賛成する人は79%と多数で、SNS運営企業の「言論の自由」への支持は21%にとどまった。
豪州政治に詳しい神奈川大の杉田弘也教授は、「法案は政権が問題に向き合い、国民の声に耳を傾ける姿勢を示すもの」と指摘する。豪州では、米英で人気の「性差別主義者」を名乗るインフルエンサーが流行するなど、同じ英語圏の過激なコンテンツ流入に保護者や教員が危機感を募らせているという。
また、杉田氏は豪州がこれまでも「世界初の実験的な政策」を実行してきた成功体験も影響しているとみる。2018年には、世界に先駆けて、第5世代(5G)移動通信システムに関する技術開発で中国IT大手の華為技術(ファーウェイ)を排除した。
各国で進む規制
未成年へのSNS規制は世界的な流れでもある。
全米州議会会議の今月22日の集計によると、全米各州で少なくとも50件の規制法が成立。東部ニューヨーク州は6月、中毒性のある投稿をアルゴリズムを使って表示するSNSアプリを18歳未満が利用する場合、運営企業とアプリストアに保護者の同意を義務付ける法律を可決した。
英国では昨年、SNSと検索エンジンの運営企業に有害なコンテンツへの未成年者のアクセス防止策を求める「オンライン安全法」が成立。25年下半期に施行予定で、規制当局は企業にアルゴリズム再構築などで有害コンテンツ表示を防ぐことなどを求めている。カナダやノルウェーなども規制強化へと動いている。
各国での規制強化の流れを受け、運営企業は子供用アカウントや保護者の管理機能強化など対策を打ち出す動きもある。
ただ、米IT大手が加盟する業界団体ネットチョイスは、各州でのSNS規制に対して「言論の自由を侵害しており違憲」とする訴訟を提起した。同訴訟を受け、西部ユタ州の規制法は施行直前に連邦地裁から差し止められた。今後、各国での規制拡大に企業側が抵抗する動きが強まる可能性もある。