毎年この時期になると、インドの首都ニューデリーなど北部地域は、しばしば白くて厚いスモッグに覆われる。大気汚染に気温低下などの気象条件が重なり、視界が100メートルに満たなくなることもある。
インドメディアによると、大気汚染の指数(AQI)は18日、494となり世界最悪レベルだった。指数は400を超えると「深刻」なレベルで健康被害の恐れが高まる。ここまで来ると、学校で授業ができなくなったり、車の通行が規制されたりして、市民生活に影響が及ぶ。
大気汚染の主な原因は、長い間、農家による野焼きとされてきたが、最大の汚染源は車だとの研究結果も数年前に発表されている。加えて、建設工事の多さも問題だ。
ニューデリーに駐在していた筆者も、視界不良で空のダイヤがさんざん乱れると、出張の際に困らされた。日課の散歩では、PM2・5(大きさが2・5マイクロメートル以下の粉塵(ふんじん))を遮断できるとの触れ込みの高級マスクをいつも着用していた。
今年の状況はどうだろう。ニューデリー近郊の人たちに通信員を通じて様子を聞いてみることにした。
ビルの男性警備員、ラジ・バハドゥールさん(67)は呼吸困難に陥っており、「この4日間体調が悪い。スモッグのせいだろう。休憩なしではビルの階段を上れなくなった。その翌日には息切れし、仕事を休まざるを得なかった。医師は屋内にいるように勧め、薬をくれたが、体調はよくない。野焼きは昔から行われているが、20年前はこんなにひどい状況だったと思わない。乗用車やトラックが増え、緑地帯の代わりに多くの建物が建てられたせいだろう。もっと木を植え、車の台数を制限すべきだ」と訴える。
デリー近郊の主婦、ジャルナ・ダスさん(72)は重度の気管支炎を患い、北部ウッタラカンド州のヒマラヤ丘陵地に避難することを決意したという。
「これまでも軽い気管支炎を患っていたが、症状がかなり悪化した。せきが止まらず呼吸困難に陥ったため、予防措置として入院した。医師によると、軽い気管支炎がスモッグのせいで重症化したとのことだった」と話す。
その上で、「私たちの地域では、多くの新しい建設工事が行われている。高架や道路、アパートなどの工事が粉塵を発生させており規制が必要だ」と訴えた。
深刻な健康被害が相次いでいることについて、メダンタ病院の胸部外科専門医、アルヴィンド・クマール教授は「治療を求めて大量の患者が押し寄せており、悲惨な状況だ。元々は健康なのに、有害な空気のせいで病気になる子供が大勢いる」と説明した。
解決策について、「高性能の空気清浄機を設置するのも効果的だが、高価なので大多数の人にとっては手が出ない。こんな生活は持続可能ではない。建設や車両による大気汚染をある程度抑制する必要がある」と話している。
(インド太平洋特派員 岩田智雄)