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「ネコやリスは外で遊べるが女性はできない」 権利制限続くアフガン、じわり狭まる国際的包囲網

産経ニュース 2024年10月14日 8時0分

イスラム原理主義勢力タリバン支配下のアフガニスタンで女性の教育が制限されるなど抑圧が続く中、国際社会で反発が広がりつつある。米人気女優のメリル・ストリープさんは9月、国連関連会合に出席し、人権状況の改善を求めて異例の声を上げた。欧米4カ国も同月、アフガンでの女性政策が「女子差別撤廃条約(CEDAW)」に違反していると強く批判。実権を握っって3年以上が経過したタリバンだが、包囲網はじわり狭まっている。

法律で全身や顔を覆うことを義務化

「首都カブールでネコは外に出て、顔に注ぐ陽光を感じ取ることができる。リスはネコとじゃれ合って公園に入ることができる。鳥も歌を歌うことができる。しかし、女性たちは、そうはできない。これは常軌を逸している」

社会派女優として知られるストリープさんは9月23日、米ニューヨークで開催された国連総会関連の女性会合で、タリバン政権の女性政策を痛烈に批判した。

アフガンでは2021年8月にタリバンが政権を奪取。中学生以上の女子教育が停止され、女性の就労も制限された。今年8月には、女性が公の場で全身や顔を覆うことなどを義務付けた法律も発表された。「誘惑」を避けるのが目的といい、近親者の男性を伴わない女性の交通機関利用も禁止されている。

アフガンでは、人権状況担当のベネット国連特別報告者の入国も同月20日までに禁止されたと報じられるなど、国連との摩擦も強まっている。

在カブール日本大使館はこれを受け、X(旧ツイッター)でタリバン政権に「深い懸念」を表明。ドイツ、オーストラリア、カナダ、オランダの4カ国も9月25日、アフガン女性の人権状況がCEDAWに抵触すると非難した。

豪州のウォン外相は「アフガンの少女ら女性たちは公共での生活を制限されている。独加蘭3カ国との共同歩調は、前例のない行動だ」とタリバン政権に圧力をかけた。

タリバン内部で「女性教育必要」の声も…

アフガンを昨年末に訪問し、女性教育など諸問題を巡り、タリバン政権要人らと会談した山本忠通・元国連事務総長特別代表(事務次長)兼国連アフガン支援団(UNAMA)代表は産経新聞の取材に対し、「タリバンの中でも、国際関係に携わった人々や、実際に行政に携わっている人たちは女性教育が必要だとはっきり認めている。正確なところは不明ながら、最高指導者のハイバトラー・アクンザダ師が女性教育に強く反対しているようだ」と話す。

アフガンでは、最高権力者が発言する内容は絶対で、異論を唱えられないのが実情。山本氏は「(現状の改善は)統治の構造自体と同師に挑戦することになり、困難が生じていると思われる。同師を説得する必要があるようだ」と語る。

実はアフガンでは22年3月、女性に中等教育を始めるとの決定が一時的になされたことがあった。しかし、生徒が学校に登校すると突如、下校を命じられた。その伏線は前日、南部カンダハルで行われた指導者たちの会議だったともいわれる。

山本氏は「アクンザダ師がその場で反対せず中等教育が始まると誰もが思ったが、会議終了1時間半後に変更の指示があり、ダメとなった。政権側はあわてて方針を撤回しようと思ったが、時遅く、子女の登校前に間に合わなかった、と関係者から聞いた」と話す。

アクンザダ師の真意について、21年に崩壊したガニ政権で財務相を務めたザヒルワル氏は「(同師は)まだ自分の権力に確信を持てず、規律を隅々に行き渡らせる必要から、この問題への反対を守らせることで自分の権威(忠誠)を確認しているのではないか」と山本氏に語ったという。

「心の記憶に残る」五輪失格

タリバンの女性抑圧は、今夏に開催されたパリ五輪の舞台でも、大きな話題となった。

紛争や迫害によって故郷を追われたアスリートで構成される難民選手団の一員、マニジャ・タラシュさん(アフガン出身)は「アフガン女性を解放せよ」と書かれたマントを着用し、ブレイキン(ブレイクダンス)に出場した。政治的行為とみなされ、失格となったが、「人々の心の記憶に残るため」マントを着用したと強調。その上で、「どうか(政権に)屈しないで」とアフガン女性たちに涙ながらに訴えた。

また、タリバン政権から「アフガン代表」と正式認定されないまま、国際オリンピック委員会(IOC)の出場依頼に応じたキミア・ユソフィさんは陸上女子100メートル予選を終えた後、「教育」「スポーツ」「私たちの権利」と書いたゼッケンを報道陣にかざしてみせた。

彼女が口にした言葉は重みを持つ。「私は人間だ。自分が何をするかは、私が決める」。

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