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出生や通学の記録なし…「中国のスパイ」疑惑の市長事件が波紋 フィリピンの反中感情に火

産経ニュース 2024年9月9日 16時25分

フィリピン北部のバンバン市長を解任され、不法出国後に逮捕された中国系のアリス・グオ容疑者(34)を巡る事件が、比国内で波紋を広げている。グオ容疑者は詐欺組織の運営に関与していただけではなく、実際は中国人で、比国籍を偽装していた疑いが浮上。中国による南シナ海での圧力を巡って比国内で反発が広がる中、市長が「中国共産党のスパイ」だったとの疑念が強まり、市民の反中感情は悪化している。

組織から殺害すると脅されていた

比当局は6日、中国系詐欺組織の運営に関与したとして、収賄容疑などでグオ容疑者を逮捕した。警察とともに共同記者会見に臨んだグオ容疑者は、「(組織から)殺害すると脅されていた」と述べた。

事件の端緒は3月、バンバン市内の「POGO」と呼ばれるオンラインカジノ施設への強制捜査だった。POGOはドゥテルテ前政権下の2016年に導入された制度で、比当局が認可したオンラインカジノ事業者を指す。

だが、近年は犯罪の温床になっていることが問題視され、恋愛感情を抱かせて金をだまし取るロマンス詐欺や、マネーロンダリング(資金洗浄)の拠点となっていた。

比捜査当局はバンバン市内のPOGOを巡り、運営側の中国人ら9人を逮捕した。その関連捜査で、組織の拠点がグオ容疑者の関連企業の土地にあったことから、グオ容疑者の事件への関与が浮上した。

一連の調べで浮かんだのは、グオ氏の経歴を巡る不審な点だ。病院での出生記録や学校への通学記録がなく、捜査当局が指紋を調べると、中国福建省出身で2003年にフィリピンに入国した「郭華萍」という中国人女性のものと一致、グオ容疑者の国籍に疑義が生じていた。

グオ容疑者はこれまで疑惑について、「私は生まれながらのフィリピン人。中国のスパイではない。悪意のある攻撃だ」と否定。だがフィリピン上院の公聴会を欠席したことで、上院が逮捕命令を出していた。

グオ容疑者は7月以降に船で不法出国。出国を受けて市長職を解任された。その後、マレーシアやシンガポールに滞在していたとみられるが、今月4日にインドネシアで拘束後に強制送還されていた。

中国系フィリピン人は動揺

事件を受け、比国内の交流サイト(SNS)などでは、「中国のスパイに派手な浸透工作を許した」「市長をさせたのは国の恥」などと、怒りの声が飛び交う。インドネシアからの送還時、グオ容疑者が比当局者と笑顔で楽しそうに過ごす画像も流出し、「国民への冒涜(ぼうとく)だ」と怒りに拍車をかけた。

8月には南シナ海のサビナ礁付近で、中国海警局の船がフィリピンの巡視船などに衝突する事案が相次いで発生。グオ容疑者の事件も相まって、フィリピンでは反中感情が急速に高まっている。

この状況に対し、推定120万人前後とされる中国系フィリピン人は恐怖感を強めている。シンガポール紙ストレーツ・タイムズは識者の話として、既に中国系フィリピン人が「戦争が起きたら中比どちらを支持するのか」「POGOと関係はないのか」とからかわれる事案が起きたと報じた。記事では、グオ容疑者を巡る事件が、現地に根付いた華人らへの「敵対的行動」につながる恐れがあるとしている。

事件ではグオ容疑者を手助けしたフィリピン当局の協力者がいたとされ、マルコス大統領は「国民の信頼を損ねる腐敗だ」として徹底捜査を指示。現地メディアによると、グオ容疑者は資金洗浄など87の罪で刑事告発され、最長で1200年超の実刑となる可能性がある。

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