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台湾の頼総統、あえて「中華民国」前面に 中国の統一圧力に対抗、注目集める「祖国論」

産経ニュース 2024年10月9日 13時54分

【台北=西見由章】台湾の頼清徳総統が「中華人民共和国(中国)は、中華民国(台湾)の人々の祖国には絶対になり得ない」と発言し注目を集めている。与党、民主進歩党の支持層が距離を置く「中華民国」という概念をあえて前面に出し、中国による台湾統一の主張に反論しているのが特徴だ。「台湾独立」論に否定的な中間層を取り込み、世論を団結させて習近平政権の統一圧力に対抗する狙いがあるとみられる。

頼氏は5日の「双十節」(建国記念日に相当)の祝賀イベントで演説。1911年に始まった辛亥革命で誕生した中華民国は、49年に成立した中国共産党の中華人民共和国よりも歴史が長いと指摘し、同国発足以前に生まれた75歳以上の中国人は「中華民国が祖国になり得る」とも述べた。

頼氏の主張は「台湾は祖国の懐にかえるべきだ」と訴える中国側の論理破綻を突いたものだ。一方、中国側が「頑固な台湾独立派」と敵視する頼氏が自ら、旧来の「台湾独立」論を否定した側面もある。

中国共産党と台湾の最大野党、中国国民党に共通する「国共内戦が完全には終結していない」という歴史観は、一つの中国という理念の根拠になっている。これに対して「台湾独立」派は従来、49年に台湾に逃れてきた外来政権の中華民国を消滅させて台湾共和国を建国し、「一つの中国」という枠組みから明確に離脱する理想を掲げていた。

しかし現実的には、「台湾独立」に向けた憲法改正に必要な有権者の過半数の支持を得るのは困難だ。

台湾の清華大栄誉講座教授、小笠原欣幸氏は「頼氏の現状認識は中国との統一か独立かではなく、台湾の現状を守り切れるか、圧力を強める中国に統一されてしまうかだ」と指摘。「台湾の世論が割れたままでは中国に隙をつかれるので、国民党の看板である中華民国を利用して統一反対という多数派の世論をまとめ、中国からの圧力をかわすというのが頼政権の狙いではないか」と分析する。

国民党からは批判の声も出ている。同党の馬英九元政権下で対外政策の立案に関わった政治大教授の黄奎博氏は、「中華人民共和国が中華民国の人々の祖国にはなり得ない」という頼氏の主張は「歴史的事実」と認める一方、頼氏が「中華民国と中国大陸との民族、法理、歴史的関係」を切り捨てていると批判した。

国民党は頼氏の発言を全面否定するわけにもいかず、対応に苦慮しているもようだ。小笠原氏は「頼氏の『変化球』が狙い通りに中間層の有権者の支持を広げることにつながるのか注目したい」と指摘する。

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