香港で19日量刑を言い渡された45人のうちの一人で、禁錮6年9月の判決を受けた香港の元立法会議員、区諾軒氏(37)は2021年1月、留学先の東京大大学院から香港に一時戻った際に逮捕された。民主派の予備選実現に向けて、元香港大准教授の戴耀廷氏(60)から支援を求められ、組織・運営に当たっていた。
数カ月悩み検察側証人に
検察側は当初、区氏について戴氏同様、最も罪が重い「首謀者または犯罪行為の重大な者」に該当するとの見解だった。今回、禁錮10年の戴氏と量刑に差が出たのは、区氏が法廷で検察側証人として犯罪の立証などに貢献したからだ。
報道によると、区氏は獄中から別の民主派の被告に送った書簡で心境をつづっている。政府側の人間から証人としての供述を求められた後、「数カ月悩んだ」という。証言すれば「自らの名声と信用を失う」のは分かっていた。「(証言をした後)人として人前で堂々としていられるか」も心配した。
しかし仲間たちに「必要のない苦しみを受けさせたくない」「人生の危機に当たり、他人にどう見られるかは二の次だ」と決断。24日間にわたり法廷で供述した。
裁判官は「(区氏の)証言がなかったら検察は立件できなかった」と評価したが、香港内外の民主活動家から「裏切り者」と非難する声が上がったのは事実だ。
量刑言い渡しが行われたこの日の法廷でも、区氏ら検察側証人として供述した3被告の周りを廷吏らが取り囲み、他の被告と分け隔てられた。
奪われた誇りと夢
ただ、区氏は「予算案の否決(で政府に譲歩を迫ること)を最初から考えていたわけではない。民主派が立法会選で過半数の議席を確保した後どうするか具体策はなかった」と検察側の主張に反する見解も述べている。
また6月の公判で、裁判官から情状酌量を巡り「50%以上の刑の減軽を求めてもいいのではないか」と問われた区氏はしかし、手をクロスさせてNOの意思表示をしたという。
予備選当時、インタビューした際、区氏は「夢があります。東京大の公共政策大学院で博士号を取得することです」と語っていた。理由を聞くと、「より良い政策を立案することが政治家の誇りだと考えているからです」と胸を張った。
だが、別の被告に送った同書簡で「政治はあきらめた」と区氏は吐露している。国安法によって、どれだけの香港人がこれまでに夢と希望を奪われたことだろうか。19日の判決はその現実をも映し出している。(藤本欣也)