2020年6月に香港国家安全維持法(国安法)が施行されて約4年半がたった香港。先月には選挙活動に参加した若者ら45人に禁錮4年2月~10年の判決が下され、民主主義が犯罪になってしまう実態が露わになった。かつて自由を謳歌し〝東洋の真珠〟と称された香港は、どう変わったのか。
博物館の名称に「抗戦」の文字
香港島東部の港湾に面した高台に「香港抗戦・海防博物館」はある。2年前に初めて訪れた際、名称に「抗戦」の文字はなかった。中国共産党が指導した抗日戦争に関する展示を拡充し、改称してオープンしたのが今年9月。抗戦とは抗日戦争の略なのだ。
国安法施行で「一国二制度」が形骸化し、中国の習近平政権による香港統治が強まる中、中国式愛国教育の一環として進む反日教育の現場である。
墓標のように立つ蘋果日報
学生らでにぎわう同博物館の対岸に位置するのが、新界地区の工業団地だ。報道の自由を掲げ、中国に批判的な論陣を張った香港紙、蘋果(ひんか)日報の社屋はその一角にあった。
編集局長ら幹部が国安法違反の疑いで逮捕され、同紙が発行停止に追い込まれてから3年余り。
敷地内は異様な静けさに包まれ、香港の自由と民主化のシンボルだった同紙の旧本社ビルだけが、まるで墓標のようにひっそりと立っている。壁には真っ赤な字で「自由を返せ」などと殴り書きされていた。
密告を奨励する広告
香港で加速するのは「愛国」と「弾圧」だ。
民主派の裁判は警察によって厳重な警備態勢が敷かれた。傍聴券を求めて並んでいた民主活動家がいきなり警察関係者に連行され、強制的に荷物を検査された。街中では密告を奨励する広告を付けた車が走り、街角には海外に逃れた民主活動家の指名手配書が掲示されていた。
道路標識の裏に「自由」
公然と「自由」を主張できなくなった香港では今、建物の壁や道路標識の裏などにしか「自由」を見つけることができない。香港人の路上芸術家が香港を象徴するドル($)と自由をモチーフに考案したデザインなどだ。誰が落書きしているのかは分からない。
ウクライナ料理店では、ロシアと戦うウクライナを応援するメッセージ「ウクライナ必勝 侵略者必敗!」が貼り付けられていた。ウクライナへの連帯の意思表明だけではないだろう。国安法の施行下、「香港必勝 中国必敗!」とは書けないのだ。(文・写真 藤本欣也)