【北京=三塚聖平】タイ入国後に行方不明となり、ミャンマーで特殊詐欺の訓練を受けさせられていた中国人俳優が11日に帰国した。犯罪グループにだまされて監禁され、頭髪をそり落とされた状態だった。中国の交流サイト(SNS)ではタイ入国後に行方不明になる類似のケースが投稿されており、タイ旅行のキャンセルが増えるなど影響が広がっている。
武装集団がミャンマーの拠点に
帰国したのは中国人俳優の王星さん(30)。中国メディアなどによると、王さんは活躍の機会を求めていたところ、SNSを通じてタイでの仕事の依頼を受けた。今月3日にタイの首都バンコクに到着し、空港に用意されていた車に乗った。車はミャンマーの国境近くに移動し、その後に行方が分からなくなった。王さんと連絡が取れなくなった交際相手が、タイの警察に行方不明を届け出ると同時に、現地の中国大使館に支援を求めた。
7日になってタイ警察が王さんを保護したと発表した。発見された王さんの頭髪はそり落とされた状態だった。王さんの説明によると、武装集団にミャンマーの拠点に連れていかれ、数日間、中国人をだます特殊詐欺の訓練を受けさせられた。王氏を含め少なくとも50人以上が敷地内に閉じ込められていたという。
ミャンマーでは近年、中国人や華僑らによる大規模な特殊詐欺グループが存在し、中国、ミャンマー両政府が摘発を進めている。詳細は不明だが、王さんはそれらのグループに騙されたとみられる。
事件が広く知られると、類似のケースがSNSで投稿されるようになった。中国の短文投稿サイト「微博(ウェイボ)」では11日までに、昨年12月にタイ・ミャンマーの国境付近で行方不明になった中国人男性モデルの父親という男性が、「一日も早く息子を見つけられるように助けてほしい」と現地で訴える動画が投稿された。
タイ旅行のキャンセルも
王氏の事件による影響は各界に広がっている。
2月にバンコクで予定されていた香港の人気歌手・陳奕迅(イーソン・チャン)氏と、中国のコメディアン・趙本山氏の公演がそれぞれ中止、延期された。
中国紙、第一財経日報(電子版)は10日、インターネット旅行サイトや旅行会社で「ここ数日、タイ旅行の安全問題に関する問い合わせが増えており、一部では既にキャンセルや変更を受けている」と伝えた。旅行先をタイ以外の東南アジアの国に切り替えるといった動きがあるという。中国では今月下旬に春節(旧正月)の大型連休が控えており、タイの観光産業に影響を与えることは避けられなさそうだ。