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中国、戦狼外交からパンダ外交に? 〝モフモフ外交官〟相次ぎ米国へ 対中包囲網で軟化か

産経ニュース 2024年7月1日 11時0分

中国による西側諸国への「パンダ外交」が加速している。特に米国では首都ワシントンの動物園などに計6頭のパンダ貸与が決定。約20年ぶりとなる新規貸与を受け、各地では歓迎ムードが高まっている。背景には、西側諸国の対中包囲網強化や中国経済の低調を受け、対外批判を繰り返す「戦狼外交」よりも、ソフトで融和的な「パンダ外交」の方が今の中国にとって得だ―との打算が見え隠れする。

ワシントンのスミソニアン国立動物園は5月末、年内に2歳のパンダ2頭を中国から迎えると発表した。同園は昨年秋、3頭を返還し、以後は不在のまま。パンダが同園に戻るのは約1年ぶりとなる。

「パンダが戻ってくる! 歴史的瞬間を祝うのが待ち切れない」

同園が公開した動画で、バイデン大統領の妻、ジル夫人はこう喜んだ。米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)も「ソフト外交のシンボルであるパンダがワシントンにいないという、長くてひどい期間がもうすぐ終わる」と期待を寄せた。

米国に約20年ぶり新規貸与

米国ではこのほか、6月末にカリフォルニア州のサンディエゴ動物園に新たなパンダ2頭が到着。サンフランシスコ動物園も来年2頭を迎える予定だ。米CNNテレビによると、中国が米国に対して新規貸与を認めるのは約20年ぶりという。

中国は、新型コロナウイルスの起源調査などをめぐり関係が冷え込むオーストラリアにも新たなつがいを送ることを決定。今年6月中旬には李強首相が貸与先のアデレード動物園を訪問し、パンダを「中豪友好の使者」と呼んだ。

近年の国際的な保護施策により、野生のパンダの生息数は増えてはいるものの、それでも2千頭には満たないとされる。中国はこの貴重な「モフモフした外交官」(ニューヨーク・タイムズ)を、友好のシンボルとして外国に貸し出すことで、自国の外交が有利になるよう利用してきた。

東西冷戦期にも前例あり

この手法が特に利用されたのは東西冷戦期。1972年、当時のニクソン米大統領が訪中した後にパンダが返礼として贈られ、米国では親中ムードが高まったという「前例」がある。

米中友好の証として、中国は50年以上パンダを米国に貸し出してきた。しかし、この数年で米国は国内のパンダの大半を返還。レンタル期間の終了が主な理由だが、それに代わる新たなパンダ貸与がなかった理由を、米メディアは近年の米中関係の険悪化と重ね合わせていた。

両国の関係に改善の兆しが見えたのは昨年秋の米中首脳会談。習氏は米サンフランシスコでの講演で、パンダについて「米国と協力を続ける用意がある」と発言し、新たなパンダ貸与に積極姿勢を示していた。

経済低調で「戦狼」トーンダウン

最近の中国の外交姿勢について、東京財団政策研究所の柯隆(か・りゅう)主席研究員は「『戦狼外交』から『パンダ外交』にシフトしている」とみる。

柯氏によると、「これまで北京の指導者の多くは中国の経済や技術力を過大評価していた。中国の協力がなければ先進国は成長できないだろうと踏んでおり、それが『戦狼外交』につながっていた」という。だが実際には、新型コロナウイルス禍が過ぎても「中国経済が想定より回復していない」一方、西側諸国は経済と安全保障の両面で「対中包囲網」を強化してきた。

「このまま『戦狼外交』を続ければ、自国の発展がかえって遅れてしまうことに北京の指導者がようやく気づき、トーンダウンさせているのが現状だ。『パンダ外交』で腰を低くし、友好的なムードを醸成することで、安心して中国に投資してほしい―というのが一番の狙いだろう」(柯氏)

米シンクタンク「ハドソン研究所」のマンキューソ客員上席研究員も「『パンダ外交』はこの数年、中国から聞こえてきた『戦狼外交』とは対照的だ」と米メディア「WTOPニュース」に対して語った。

ただ、マンキューソ氏は「パンダは愛されているが、米中関係の力学を根本から変えることはない」とも指摘。「中国が依然として米国の戦略上の競争相手であるのは変わらない。中国は米国だけでなく世界中の国々との緊張を和らげるため、パンダを利用している」と警戒感を示した。(本間英士)

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