Infoseek 楽天

ウクライナでF16戦闘機運用開始 戦況好転へゲームチェンジャーになるか

産経ニュース 2024年8月7日 18時57分

ウクライナが西側諸国に供与を求めてきた米国製戦闘機「F16」の第1陣が今月到着し、国内での運用が始まった。ロシアの侵略開始から約2年半。戦局は膠着状態が続き、ウクライナ軍は地上戦で突破口を見いだせずにいる。F16の導入は課題だった防空体制を改善し、戦況を好転させる契機となるか。

F16に大きな期待

「ウクライナの航空戦力強化は新たな段階に入った」。ゼレンスキー大統領は4日、デンマークが供与した2機のF16を前にこう訴えた。内外のメディアにデモ飛行も披露し、「勝利をもたらす戦果を挙げてほしい」と語った。

F16については、米国が2023年5月、同盟国からウクライナへの供与を許可した。現時点でノルウェー、デンマーク、オランダ、ベルギーから計約80機の供与が予定されている。ただ、年末までの供与は20機程度とされ、運用の効果は未知数だ。

ウクライナのF16に対する期待は大きい。航空戦力に勝る露軍は戦闘機で広範囲に制空権を確保し、ドローン(無人機)やミサイル攻撃で攻勢をかける。他方、ウクライナ軍の戦闘機は旧ソ連期の旧式で探知レーダーも古い。空から地上部隊を援護できないことが苦戦の要因となっている。

制空、対地攻撃に優れ安価

F16は1974年に初飛行した第4世代の戦闘機だ。最新鋭ステルス戦闘機F35のように敵レーダーから逃れるステルス性能はないが、これまでに何度も改良が行われ、制空能力や対地攻撃能力も優れているとされる。性能の割に安価で現在25カ国で3千機以上が運用され、部品調達が容易であることもメリットだ。

ウクライナ軍が効果的に運用できれば、露軍の制空権を奪取できる可能性がある。露軍の長距離ミサイルやドローン、滑空爆弾の攻撃に対応でき、露領内や露支配地域の軍拠点への攻撃も可能だ。課題だった防空体制を強化でき、地上部隊の戦況を好転させる可能性も秘める。ゼレンスキー氏は「少なくとも128機が必要だ」と訴える。

パイロットも整備人員も不足

一方、F16が「戦況を劇的に変えるゲームチェンジャーにはならない」との見方も根強い。

英政策研究機関「王立防衛安全保障研究所」(RUSI)のブロンク上席研究員はロイター通信の取材に、F16がどれだけ供与されても効果的な兵器や十分に訓練されたパイロットがいなければ「次々と撃墜されるだけだ」と話した。

昨年から米英などでウクライナ軍のパイロット向けにF16の訓練が行われてきたが、運用経験の少なさも不安視される。米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は今月4日、米当局者の話として、今年中にF16を操縦可能になるのは約20人と報じた。1機の運用に2人は必要で、年内に動かせるのは実質、約10機にとどまるという。

露軍は今年、ウクライナの飛行場への攻撃を強化している。F16が配備される可能性のある施設を破壊し無力化を狙ったものとみられる。ウクライナ軍は今後、F16関連施設の秘匿や防空体制強化も急務となる。

F16の運用体制の整備には通常、数年はかかるとされ、ウクライナ軍には熟練した整備人員も足りていない。地上部隊と連携した効果的な統合作戦ができるかも未知数で、軍事専門家の間では、当面は戦況の劇的な好転は難しいとの意見が少なくない。

ゼレンスキー氏はF16の機数やパイロット、整備人員が十分でないと認めた上で、友好国に訓練機会の拡大を要請。「北大西洋条約機構(NATO)ウクライナ理事会」の枠組みを通じ、協力関係にある隣国に対し、露軍のミサイル迎撃への支援を要請する考えも示している。(桑村朋)

この記事の関連ニュース