【パリ=三井美奈】ドイツ東部マクデブルクで移民男性がクリスマス市に車で突入した事件を受け、トランプ次期米大統領の側近で実業家イーロン・マスク氏が、独政府をX(旧ツイッター)で攻撃している。ショルツ首相に「すぐに辞めよ」と促し、移民排斥を訴える右派政党を支持した。マスク氏の「X砲」は欧州各国に広がり、政治介入への警戒感が高まっている。
この事件では9歳の子供を含む5人が死亡し、サウジアラビア出身の男(50)が逮捕された。マスク氏は事件後まもなく、ショルツ氏を「無能なバカ」と呼び、移民政策をなじった。そのうえで、ドイツ人右派インフルエンサーの投稿に反応し、「ドイツを救えるのは、ドイツのための選択肢(AfD)だけ」と書き込んだ。AfDは移民排斥を掲げ、政界で「極右」と異端視される政党。近年は支持率が急伸しており、ショルツ氏の中道左派与党、社会民主党(SPD)を脅かす存在だ。
ドイツでは来年2月に総選挙を控えており、欧州連合(EU)のフランス人元欧州委員は「外国による介入ではないか」とXで疑念を示した。するとマスク氏は「米国の介入のおかげで、あなたは今、ドイツ語やロシア語を話さずにいられる」と反論した。第二次大戦で米軍がフランスを独ナチスの占領から救い、西側の一員とした歴史を忘れるな、という意味だ。
マスク氏の標的はドイツに留まらない。英労働党のスターマー政権にも矛先が向く。英政府が今秋、農業資産の相続で課税強化を打ち出すと、「英国はスターリンでいっぱい」と発信。旧ソ連の独裁者を引用して、増税を批判した。
独英の中道左派政権をたたく一方、移民削減を掲げるイタリアの右派政権は擁護する。伊裁判所が先月、メローニ首相の移民対策に人権侵害の恐れがあるとの判断を下すと、「判事は出て行け」と反発した。
マスク氏は電気自動車(EV)大手テスラなどを率いる大富豪で、世界的な人脈を持つ。その影響力の大きさから、今月22日付仏紙ルモンドは社説で「第二の米大統領になる」と予測。「どんな事象にも発言し、不安を招く影響力ではトランプ氏を上回る」と論じた。独誌シュピーゲルはマスク氏を「自由民主主義の脅威」と位置付けた。
マスク氏はトランプ次期政権で「政府効率化省」トップに就任する予定。国務長官にはルビオ上院議員が起用される予定だが、欧州では「マスク氏は外交でも重責を担う」との見方が強い。トランプ氏が先月、ウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談をした際、同席させたと報じられたことが背景にある。