ロシアは28日、同国を後ろ盾としてきたアサド前政権が崩壊したシリアに代表団を派遣し、暫定政府を率いる旧反体制派「シリア解放機構(HTS)」トップのアハマド・シャラア(通称ジャウラニ)指導者らと協議した。ロイター通信は29日、シリア側消息筋の話として、シャラア氏が政権崩壊によりロシアに亡命したアサド前大統領の身柄引き渡しをロシアに要求したと報じた。
昨年12月のアサド前政権の崩壊後、ロシアがシリアに代表団を派遣したのは初めて。ロシアはアサド前政権との合意に基づきシリア国内に租借してきた軍事基地を維持したい思惑だが、シリア側によるアサド氏の身柄引き渡し要求が事実であれば、ロシアは困難な立場に置かれる。
タス通信によると、露代表団トップのボグダノフ外務次官は28日、この日の協議で露軍事基地の扱いについて結論は出ず、「協議を継続する方針で一致した」と明らかにした。今後、アサド氏の身柄と露軍基地の扱いを巡る両国の駆け引きが激化する可能性がある。
露外務省は29日、今回の協議でロシアがシリアの領土的一体性を支持し、国土復興に必要な支援を提供する用意があると伝達したと発表。また、「伝統的な友好と相互尊重の原則に基づいて今後も2国間協力を構築するという願望」が確認されたとも主張した。
ロシアは2015年、アサド前政権側でシリア内戦に軍事介入し、優勢だった反体制派への空爆を実施。戦局を政権軍側に好転させた。ロシアは介入を通じ、旧ソ連時代から租借してきたシリア西部タルトスの軍港に加え、北西部ヘメイミーム空軍基地の使用権も獲得。地中海や中東、アフリカなどに軍事的影響力を行使する拠点としてきた。(小野田雄一)