Infoseek 楽天

セーヌ川汚染の元凶は19世紀以来の旧式下水道網 日々の水質がパリ五輪の日程を左右

産経ニュース 2024年8月6日 13時2分

パリ五輪でセーヌ川を泳いだトライアスロン選手が相次いで体調不良を訴えた問題は、古都の河川を競技場にする難しさを示した。パリ中心部は19世紀以来の街並みが残り、雨水と生活排水が混ざり合う旧式下水道の改善が課題になってきた。

市は因果関係を否定

パリ市のラマダン助役(五輪担当)は5日、ベルギーの女子選手が7月31日の競技に参加した後に体調不良を訴えたことについて、水質との因果関係を否定した。同日の公共ラジオで「体調不良と水質との関係は裏付けられていない」と述べ、直前の検査で水質は良好だったと主張した。ベルギーは選手欠員で、5日のトライアスロン混合リレーを棄権した。

ベルギー紙は女子選手の体調不良は、大腸菌汚染が原因との見方を報道。同国のオリンピック委員会は4日の声明で、病名に触れないまま、「今後の五輪で教訓にしてほしい」と表明した。競技や練習予定が日々の水質に左右され、選手が不安にさらされたことへの不満を示した。スイスやノルウェーの選手も31日以降、相次いで体調不良を訴えたという。

雨水と排水が合流、汚染源に

パリの下水道網の歴史は古く、14世紀のペスト流行後に整備が始まったとされる。現在は全長2600キロ。19世紀の文豪ビクトル・ユゴーは代表作「レ・ミゼラブル」に、当時すでに226キロの下水道網があったと記している。

下水道整備ではいま、雨水と生活排水の配管を分離する「分流式」が主流だが、パリには雨水と生活排水が混ざり合う「合流式」が多く残る。このため大雨が降って水位が上がると、排水が下水処理場にたどり着く前にセーヌ川に流れ込み、汚染の元凶になってきた。上流の河岸からの農薬流出、観光船の増加が水質悪化に拍車をかけた。

だが、「パリのセーヌ河岸」は世界遺産に指定されており、改修工事は容易ではない。

殺菌は日光の紫外線頼み

五輪を前に水質改善を目指し、パリのセーヌ河岸には深さ30メートルの巨大貯水槽が建設された。競技用プール20杯分の下水を貯め、ポンプで下水処理場に送る仕組みで、5月に稼働を開始した。それでも6~7月は雨天続きで、改善は遅れた。トライアスロン国際試合で「良好」な環境条件は、水100ミリリットルあたりの大腸菌コロニー形成単位(CFU)が1000以下とされるが、セーヌ川では7月半ばになっても上限の2倍に達する地点があった。パリ市は「天候が回復すれば、紫外線の殺菌効果が期待できる」として、計画を変えなかった。

セーヌ川は1923年、水質汚染のために遊泳禁止になった。前回、パリで五輪が開催された前年にあたる。パリ市は100年ぶりの五輪開催で、水質浄化という歴史的事業を披露し、来年には一般市民に遊泳を解禁する計画を描いている。浄化事業には、14億ユーロ(約2200億円)が投入された。(三井美奈)

この記事の関連ニュース