【パリ=三井美奈】ドイツのショルツ連立政権が崩壊の危機に立たされている。景気低迷が続く中、2025年予算案をめぐって与党間の亀裂が深まり、「来春、総選挙が前倒し実施される」という観測も飛び出した。米大統領選を目前に控え、ドイツ政局の混迷は欧州連合(EU)の不安材料となっている。
連立政権の危機が表面化したのは10月29日。ショルツ首相が労働組合や経済界の重鎮を集めて、「産業サミット」を開いたことだ。連立第2党の緑の党、第3与党の自由民主党(FDP)の経済閣僚は、いずれも招かれなかった。
緑の党のハーベック経済・気候保護相は、23日に独自の産業再生プランを発表し、環境産業への補助金支給をうたったばかり。FDPのリントナー財務相は29日、首相に対抗するように企業経営者との独自集会を開いた。ショルツ氏やハーベック氏からは、事前相談が全くなかったことも暴露した。
連立政権では、もともと経済政策に温度差があった。ショルツ氏の社会民主党(SPD)、緑の党の中道左派2党は景気刺激や環境政策のための財政支出に前向きで、FDPは財政規律を重視する。連立3党は今年7月、差異を克服して25年予算案で基本合意にこぎつけた。だが、ドイツの経済低迷が続き、地方選や欧州議会選で3党の支持がそれぞれ低迷すると、再び対立が深まった。
追い打ちをかけたのは、ドイツ産業界を代表する自動車最大手、フォルクスワーゲン(VW)の不振だ。国内工場の閉鎖や賃金引き下げを検討していることが明らかになった。労働組合の猛反発に同調し、SPDは雇用重視を打ち出して緑の党と距離を置いた。リントナー氏は独メディアで連立政権は「今秋の決断」を迫られると発言。「FDPは連立離脱も辞さない構えか」と、波紋を広げた。
公共放送局ドイチュラントフンクなど複数のメディアは、来年3月9日に総選挙が行われる可能性があると報じた。議会任期満了に伴う総選挙は来年9月に予定されており、半年前倒しされるという見方だ。今月半ばの連邦議会予算委員会までに、3党合意ができるか否かが試金石になるという見方が広がる。10月末の世論調査では、政権支持率は14%に低下。54%が前倒し総選挙を支持した。
ドイツはEU一の経済大国で、域内総生産(GDP)の約4分の1を占める。ウクライナ支援は米国に次いで多く、政局はEUの政治、経済の行方に直結する。