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シェルターの人口カバー率は日本の17倍、中でスポーツも ロシアと国境接するフィンランド

産経ニュース 2025年1月8日 17時2分

ロシアによるウクライナ侵略など国際情勢が悪化する中、有事における国民保護は喫緊の課題だ。日本は北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の軍拡に直面するが、シェルターの人口カバー率は約5%(地下施設のみ)にとどまる。一方、ロシアと約1300キロの国境線で接するフィンランドでは、人口の8割超をカバーするシェルターを整備し、外部からの武力攻撃に備えている。フィンランドのシェルターを訪ねた。

地下約30メートル

首都ヘルシンキの中心地・ヘルシンキ中央駅から1キロほど離れた一角に小屋がぽつんとたたずんでいる。中にはエレベーターの出入り口と階段しかない。そのエレベーターで地下約30メートルへと降りると、強固な基盤岩をくり抜いた地下空間が広がる。

スポーツ用のコートが4面ある他、コーヒースタンドや子供向けの遊び場も併設されている。地上は冬の寒さだが、地下空間は快適な気温に保たれており、10人ほどの若者たちがインドアホッケーに興じていた。

ただ、この施設は市民の憩いの場にとどまらない。「メリハカ市民防衛シェルター」という名前を持ち、有事には約6000人を収容するシェルターとして活用される。

核兵器や毒ガスといったあらゆる攻撃を想定し、厚さ約40センチの金属製の扉、衝撃を到達させないための余剰空間、汚染された空気を浄化するフィルターなど、さまざまな防御用の構造が組み込まれている。避難者のための組み立て式ベッドやトイレを備え、甲状腺被曝を防ぐヨウ素剤も備蓄している。

フィンランドは1939年にソ連(現ロシア)の侵攻を受けた歴史があり、耕地面積の10%を奪われながらも独立を維持した。以降もソ連に脅かされながら国民を守る備えを続けてきた。

シェルターを管轄するヘルシンキ市救助局安全対策コミュニケーション部のアンナ・レヘティランタ部長は「施設を日常的に使用することで、市民は避難シェルターの場所が頭に入っている」と説明する。

脅威にさらされ進化

フィンランドではシェルターは珍しい施設ではない。法律で床面積が1200平方メートル以上の建築物にはシェルター設置が義務付けられている。

国内に約5万500カ所整備されており、収容人数は人口約550万人の約85%をカバーする。ヘルシンキ市内には約5500カ所あり、人口約67万人を上回る90万人の収容が可能だ。観光客らも避難できる。

第一次世界大戦中には、毒ガスを念頭にシェルターを初めて設置。第二次世界大戦では新たに空爆という脅威が加わった。軍事技術の進化に合わせるためにシェルターに求められる防御能力の基準は5~10年おきに見直されている。

「フィンランドは常に市民を保護する態勢を作ってきた。シェルター整備は国民保護のみならず、社会機能を維持していくためのものだ」

レヘティランタ部長は意義をこう強調する。

大半が地上の施設

昨年12月10日、フィンランドのオルポ首相を首相官邸に迎えた石破茂首相は、フィンランドのシェルター整備について取り上げた。同席者は「首相はどのようにすればフィンランドのようにシェルターを普及できるのか、ヒントを得たいと考えていた様子だった」と語る。

日本のシェルターの整備状況は大きく遅れている。昨年4月時点で、ミサイルの爆風などから身を守る「緊急一時避難施設」に指定されたコンクリート造りの建物などは全国で約5万9000カ所ある。だが、その大半は、地上の学校校舎や公共施設であり、地下施設は3926カ所にとどまる。地下施設に収容できる人数は、人口のわずか4・7%だ。

台湾有事が現実味を帯びる中、中国に近い先島諸島でさえシェルター整備は思うように進んでいない。日本でも早期の整備が求められる。(深津響)

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