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パリ五輪開幕 不安の時代に試されるスポーツの力

産経ニュース 2024年7月27日 13時14分

緊張が続く欧州で、いよいよパリ五輪が始まった。

セーヌ川で行われた開会式で、ウクライナの選手たちが青と黄の国旗を誇らしげに振った。華やかな式典会場から1600キロ東の祖国では、その夜もロシアの攻撃がやむことはなかった。ウクライナ戦争はおよそ2年半続いている。

パリで五輪が開催されるのは、100年ぶり3度目となる。今回は二つの主題を持っている。

一つは、歴史と現代をつなぐことだ。フランスは世界遺産を五輪会場に変貌させた。

壮麗なベルサイユ宮殿の庭園は、馬術の競技場になる。パリ中心部のコンコルド広場には、新種目ブレイキンやスケートボードの特設会場が建てられた。ここは18世紀のフランス革命で、国王ルイ16世がギロチンで処刑されたところでもある。

大会組織委員会が掲げるもう一つのテーマは、地球温暖化対策である。

会期中の温室効果ガス排出量を従来の五輪の半分にする目標を掲げる。選手村にエアコンは設置せず、使い捨てプラスチック容器も原則として使わない。

パリは近年、異常気象が続き、夏の気温が35度を超えることも珍しくなくなった。ベテランの仏紙スポーツ記者に「エコ五輪は、やせ我慢ではないか」と聞いてみた。すると彼は「これは絶対にやらなくてはならない。五輪を存続させるには、環境への配慮が不可欠だ」と力説した。

近年、五輪招致には「税金の無駄遣い」「環境破壊」という批判がつきまとう。ドイツやカナダ、スイスでは、それぞれ住民投票で招致が否決された。パリ五輪は、新たな大会モデルを示そうとしている。

26日の開会式直前、フランスでは高速列車TGVが攻撃された。パリを囲む路線の数か所が同時に放火され、運行停止で約80万人が足止めされた。大会への攪乱(かくらん)工作であることは明らかで、不安な時代を象徴するようだった。紛争と政治分断、気候変動が影を落としている。

開会式では、雨が降りしきる中、聖火を乗せた気球がパリの夜空を照らした。17日間の熱戦は世界中の人々を沸かせ、平和への希望を灯すことができるか。スポーツの祭典の力が試されている。(三井美奈)

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