出張取材のため3年弱ぶりに前任地の米ワシントンを訪れ、知り合いの米国人記者らと再会した。
大統領選取材の真っ最中の彼らが意外にも強い関心を示したのが、労働党が政権奪還を果たした7月4日の英総選挙だった。
米記者の一人が「特に印象深かった」と指摘したのが、スナク前首相が5日の退任直前に首相官邸前で行った「お別れ演説」だ。
スナク氏は冒頭、選挙の敗北を率直に「申し訳ない」と謝罪し、敗北の責任は自身にあると認めた。在任中の自身の実績を誇示しつつ、後任首相のスターマー労働党首を「慎み深く、他者に尽くす心を持った、私が尊敬する人物だ」と称賛。さらに「彼の成功は私たち全員の成功だ」と述べ、スターマー氏の前途に幸あれと祈った。
政治家の社交辞令と言ってしまえばそれまでだ。だが、4年前の米大統領選で当時のトランプ大統領が敗北を認めず大混乱が起き、今回の大統領選でも共和党と民主党の候補や支持者が互いを罵りあう現場に身を置く記者たちからすれば、英国政治の風景は「一服の清涼剤」に映ったのだ。
「果敢なる闘士たれ、潔き敗者たれ」とは慶応義塾大学の塾長だった故・小泉信三の言葉だ。米国政治がこうした精神を少しでも取り戻すことを願ってやまない。(黒瀬悦成)