【ブリュッセル=黒瀬悦成】北大西洋条約機構(NATO)は3日に開いた外相会合で、ロシアに侵略されたウクライナのNATO加盟への招待を今会合では見送ることを決めた。全会一致を原則とする加盟32カ国の足並みがそろわなかった。対ウクライナ支援に懐疑的なトランプ次期米大統領の就任を前に、前線での苦戦が目立つウクライナは国家の存亡を左右する剣が峰に立たされつつある。
外相会合に初参加したウクライナのシビハ外相は記者団に「強力かつ歴史的な決断が必要だ」と述べ、NATOに対して加盟招待に踏み切るよう促したが、主要加盟国の米独が慎重姿勢を崩さなかった。
次期米政権は、ウクライナが和平協議に応じるのを条件に米国が軍事支援の継続を約束すると同時に、ウクライナのNATO加盟を凍結するなどの和平提案を検討しているとされる。
このためバイデン米政権は、現時点でNATOがウクライナを招待しても、トランプ氏が猛反発して就任後にNATOの決定を覆すのは必至だとして、招待は得策でないと判断した。
NATOとしても今回はトランプ氏の就任まで加盟問題を前進させず、戦争終結後のNATO加盟を実現させるため同氏を抱き込む形で合意形成を図るのが得策だと結論づけた。
一方、NATO高官が3日明かしたところでは、ロシアは露西部クルスク州で攻勢に転じるとともに、ウクライナ東部地域で占領地域を急拡大させている。
事態を受け、バイデン政権は2日、ウクライナに高機動ロケット砲システムや対人地雷など7億2500万ドル(約1080億円)規模の追加軍事支援を実施すると発表。ドイツのショルツ首相も同日、6億5000万ユーロ(約1020億円)規模の軍事支援を発表するなど、会合に合わせて加盟国の支援表明が相次いだ。
NATOは軍事支援の拡大を強調してウクライナの理解を求めるが、ウクライナはトランプ氏の再登板でNATO加盟と軍事支援の継続がいずれも頓挫する恐れがあるとして、不満と危機感を募らせている。
シビハ氏は3日、ソ連崩壊後に米英露がウクライナの核放棄と引き換えに安全保障を約束した1994年の「ブダペスト覚書」が「失敗だった」と指摘。その上で、NATO加盟こそがウクライナの安全保障を約束する唯一の策であるとの考えを念頭に「(94年の)過ちを繰り返してはならない」と訴えた。
会合は4日、中露による欧州諸国に対するサイバー攻撃や偽情報工作、重要インフラへの破壊活動に関する情報共有や対策強化なども確認して閉幕した。