韓国・ソウルの日本大使館跡地付近に建つ慰安婦像の撤去に向けて、わずかながら好転の兆しが出ている。慰安婦像の周囲は慰安婦支援団体が日本政府への抗議集会を展開する一方、近年は韓国の保守系団体が撤去を求めて対抗している。保守系団体は真っ先に地元警察署に対して集会を申請してきたが、慰安婦像前の集会は認められなかった経緯がある。今回、韓国の国家人権委員会(人権委)は「申告の順位を無視することは集会・デモの自由に対する重大な侵害に該当する」と判断した。
2年間真っ先に集会申請するも
人権委は人権に関する政策、政府や民間による人権侵害などに勧告を出す。保守系ネットメディア「ペン・アンド・マイク」や左派系のハンギョレ新聞など複数の地元メディアが報じた。
大使館前では1992年1月から慰安婦支援団体「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯(正義連、旧挺対協)」が抗議集会(水曜集会)を開いている。
国内外に慰安婦問題の拡散を図る正義連に対し、保守系の市民団体「慰安婦法廃止国民行動」(金柄憲=キム・ビョンホン代表)は2019年12月以降、水曜集会と時期を合わせて慰安婦像の撤去を求める対抗集会を開始。「慰安婦は詐欺だ」などと訴えている。
国民運動は23年2月以降は毎回、正義連などに先んじて慰安婦像を管理するソウル市鍾路(チョンノ)区の警察署に対し、像の前での「反水曜集会」を申請しているという。
警察側は秩序維持などを理由に国民運動の慰安婦像の前での開催は認めなかった。像の近くに国民運動のメンバーらは接近できない。一方、国民運動より後に申告した正義連の周辺は自由に出入りできるという。
「集会の自由が保障された社会」
国民運動は23年11月、慰安婦像前での集会開催などを求め、人権委に対して陳情する。人権委も昨年12月、申告順序に伴った集会の開催を保障するよう警察署に勧告を発出した。
一方、正義連や一部メディアは人権委に対して、「慰安婦被害者を冒涜(ぼうとく)する市民団体に優先権を与えた」「人権に逆行する」などと批判のトーンを強めているという。
金柄憲氏は産経新聞の取材に「集会の自由が保障された国で多数の集会が競合を争う場合、申告順序によって集会優先権を与えるのは当然で、今回の人権委勧告決定もそのような趣旨の勧告だ。特定団体に集会優先権を与えるということではない」とコメント。人権委の今回の勧告はイデオロギーなどとは無関係で、ルールにのっとった措置に過ぎないとの考えを示した。
ただ、人権委の勧告に強制力はない。水曜集会が開かれた今月8日も、国民運動側は慰安婦像の前で集会は行えなかった。関係者によると、警察が国民運動と正義連など反日団体との摩擦・暴動が起こることを恐れたためだという。(奥原慎平)