【ソウル=桜井紀雄】韓国国会で14日、尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の弾劾訴追案が可決された。尹氏は軍隊を動員した「非常戒厳」の狙いの一つが選挙管理委員会のシステムの調査だったと明らかにした。保守層の一部には革新系野党が大勝した4月の総選挙に不正があったとの見方が根強い。尹氏は支持者らのそうした声に突き動かされ、戒厳宣布という極端ともいえる手段に走った可能性がある。
明かせなかった深刻なこと
尹氏は12日の国民向け談話で「これまで明かせなかった深刻なことがある」と述べ、昨年、選管などに北朝鮮のハッキング攻撃があったと説明した。情報機関がハッキングを試すと、データ操作が可能な上、「12345」のような単純な暗証番号で「衝撃を受けた」という。「民主主義の核心である選挙を管理するシステムがでたらめなのに、国民は選挙結果を信頼できるのか」と訴えた。
金竜顕(キムヨンヒョン)前国防相に、戒厳を受けた選管システムの「点検」を指示していたとも明らかにした。
3日夜の戒厳宣布の約5分後には近くに待機していた軍部隊が中央選管庁舎に突入。国会の戒厳解除要求を受け、システムを撮影しただけで、部隊は4日未明に撤収した。だが、軍幹部は実際は「選管のサーバーをコピーしてまるごと持ち出せ」と指示されていたと国会で証言している。
不正選挙疑惑は、保守系与党「国民の力」の前身政党の代表だった黄教安(ファンギョアン)元首相らがユーチューブで繰り返し主張。黄氏は2016年当時の朴槿恵(パククネ)大統領の弾劾訴追後に大統領権限代行も担い、保守層に一定の影響力を持つ。保守団体による最近の集会でも、参加者らは不正選挙を主張し、野党代表らを「逮捕せよ」と叫び続けている。
社会対立が深刻化する恐れ
不正選挙疑惑については一般に「陰謀論」とみなされてきた。ただ、「親北野党勢力に社会が蹂躙(じゅうりん)されている」との尹氏の主張に共鳴する支持者も多く、今後も疑惑への認識を巡る社会対立が深刻化する恐れがある。
中央選管は、不正選挙疑惑について「司法機関の判決で全て根拠がないことが判明している」と反論。尹氏の主張を「自分が大統領に当選した選挙システムに対する自己否定だ」と批判する。