ウクライナを侵略するロシアに北朝鮮兵が派遣され、米国やウクライナ当局は数日以内にウクライナ軍との戦闘に投入されるとの見方を示した。防衛研究所の兵頭慎治・研究幹事は、「欧州のウクライナ戦争と東アジアの朝鮮半島情勢がリンクした」と指摘。露朝「同盟化」により、東アジアの安全保障環境がさらに複雑化すると警鐘を鳴らす。
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露朝が砲弾やミサイルの供与から兵士の派遣へと軍事協力の水準を引き上げた狙いは、実利的な相互協力と戦略的な対米牽制(けんせい)の強化だろう。
北朝鮮は派兵の見返りに、「国防5カ年計画」で掲げたミサイルや原子力潜水艦、あわよくば核兵器の関連技術などをロシアから引き出す狙いがあるとみられる。ウクライナで得られる実戦経験と兵器改良が、今後の軍事力向上に結びつくことも期待しているだろう。
露朝両国は6月に「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結したが、プーチン露大統領が「同盟」という表現を用いないなど温度差がみられた。北朝鮮は今回の派兵で、有事の軍事支援を定めた条約の実効性を高めながら、米韓に対してロシアが軍事的後ろ盾だと印象付けようとしている。ロシアとしても、将来的な北朝鮮への軍事技術支援や朝鮮半島有事への関与を示唆することで、米国のウクライナ支援を牽制できる。
警戒すべきは、中国を交えた3カ国の連携に発展することだ。そうなれば、東アジアで有事が同時・連鎖的に起きる「複合事態」が現実味を帯びる。中露両軍は日本周辺の空や海で共同活動を活発化させており、9月に露軍が実施した大規模な海軍演習に北朝鮮はオブザーバー参加した。露朝接近と距離を置く中国に対して、ロシアは露中朝3カ国による合同海軍演習を提案していると韓国側は指摘する。
露朝「同盟化」により、欧州のウクライナ戦争と東アジアの朝鮮半島情勢がリンクしてしまった。東アジアの安全保障環境がさらに複雑化することが懸念され、日本も新たな対応を検討する必要に迫られるのではないか。(聞き手 石川有紀)