女流作家、韓江(ハン・ガン)氏(54)のノーベル文学賞受賞に韓国は「今や世界文学の中心になった」などと盛り上がっていたが、その後も話題は尽きない。たとえば政府の「韓国文学翻訳院」はこれまで彼女を集中的に支援し、翻訳や彼女の海外派遣などで総額、約10億ウォン(約1億円)を投入したと発表している。
一方、彼女の作品をめぐっては政治的偏向を指摘する批判が以前からあり、ノーベル賞受賞に際し、ソウルのスウェーデン大使館に抗議する人びとがいた。出版界でも「ハンガン批判」本が準備中で、その編集者によると「彼女に対する過度な支援の裏には左翼勢力の陰謀がある」という。
彼女の代表作『少年が来る』は彼女の故郷で起きた反政府デモと軍の衝突「光州事件」が素材になっているが、当時、軍非難として流布された軍による婦女子への蛮行などデマが事実のように描かれ、「虐殺者全斗煥」とか「殺人鬼全斗煥」といった言葉が登場するなど「あれは小説の名を借りた政治的宣伝物」というのが批判派の不満だ。
彼女の作品には政治的状況(時代)の犠牲になった人びとの心の痛み、うっ憤(恨=ハン=)、鎮魂をテーマにしたものが目立つ。それが受賞理由でもあったが、左右の政治的対立が激しい国内では批判や疑問の対象になりやすい。(黒田勝弘)