【ソウル=桜井紀雄】韓国の尹錫悦大統領は3日夜(日本時間同)、緊急の談話を発表し、革新系最大野党「共に民主党」が多数派を占める国会を利用し、国政や司法を麻痺させているとして「反国家勢力を一挙に清算し、自由憲政秩序を守るために非常戒厳を宣布する」と表明した。国防省は軍に警戒態勢の強化を指示。戒厳司令部が設置され司令官に朴安洙陸軍参謀総長が就任した。
戒厳司令部は、国会や地方議会、政党の活動と政治的結社、集会、デモなど、一切の政治活動を禁じるとする布告を発表。全てのメディアや出版も統制を受けると表明した。
共に民主党は「違憲で反国民的な戒厳宣言だ」と強く反発し、国民に国会に集まるよう呼び掛けた。保守系与党「国民の力」の韓東勲代表も「宣布は間違っている」とし、「国民とともに阻む」と反対する立場を示した。
韓国メディアは、尹政権が国会議員の逮捕に乗り出す可能性があると報道。国会は一時、出入りが統制され、上空をヘリコプターが飛び交うなど緊迫した状況が続いたが4日未明、出席議員の賛成多数で戒厳解除の決議を可決した。国会内には軍の部隊が踏み込んでいたが、可決を受け撤収する動きを見せた。
共に民主党は、尹政権の方針と対立する法案提出や採決の強行を繰り返してきたほか、閣僚や検察官らの弾劾訴追案を相次ぎ国会に提出し、行政や司法の運営に支障を来す事態となっていた。
尹氏は談話で、こうした行為を繰り返す野党側を「内乱を画策する明白な反国家行為だ」と強く批判。国会が「犯罪者集団の巣窟になった」とも主張した。また、野党側を北朝鮮に従う「従北勢力」とも呼び、非常戒厳に関し、「体制転覆を狙う反国家勢力の動きから国民の自由や安全、国家の持続可能性を保証し、未来世代に正しい国を引き継ぐための必然的な措置」だと強調した。「可能な限り早期に反国家勢力を粛清し、国を正常化させる」と主張した。
国民に「多少の不便がある」としつつ、不便を最小限に抑えることに注力すると述べた。
在韓国日本大使館は3日夜、在留邦人に向けたメールで、「具体的な措置は不明だが、今後の発表などに留意」するよう注意喚起した。