【ソウル=桜井紀雄】北朝鮮は、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による「非常戒厳」宣布についてメディアで伝えず、表面上静観を保っている。ただ、韓国への対決姿勢も強めており、政治的混乱に乗じて攻勢に出る可能性が指摘されている。
3日夜に韓国国会に投入された軍特殊部隊は対北作戦が本来の任務。兵士らはメディアの取材に対北作戦での出動と思ったが、国会に着き、「民間人相手の作戦にうろたえた」という。有事に備える兵士らに混乱が生じた様子がうかがえる。
北朝鮮は韓国社会の混乱を利用しようとしてきた。北朝鮮からの指令でスパイ活動をしたとして最近、懲役15年の1審判決を受けた労働組合元幹部は、2022年に160人近くが犠牲になったソウル・梨泰院(イテウォン)の雑踏事故に乗じ、「国民の怒りを政府に向けさせよ」との指令を北朝鮮から受けていたと断定された。
ただ、北朝鮮は対韓介入が容易でない事情も抱える。国内で生産した砲弾を備蓄分までウクライナを侵略するロシアに送り、「実戦はままならない状況だ」と韓国当局は分析。ロシアへの大規模派兵にも踏み切り、軍事的措置には限界がある。
その上、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記が従来の南北統一政策の放棄を表明し、韓国内の協力者を切り捨てるような態度に出始めた。一方で、北朝鮮からとみられる韓国の国防関連機関へのサイバー攻撃は増え続けている。親露派からとみられる政府機関へのサイバー攻撃も確認されている。今後、尹氏の退陣に伴い大統領選となれば、北朝鮮などがネットを使った世論操作を仕掛ける可能性も警戒されている。