韓国で「非常戒厳」を宣布し、国会などに兵力を投入した尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が15日、内乱首謀容疑で現職大統領として初めて身柄を拘束されたが、政治的混乱は収拾の兆しが見えない。尹氏は戒厳の正当性と捜査の不当性を訴え、徹底抗戦の構えを見せる。尹氏を支持する一部保守層と身柄拘束を求めてきた革新層の対立が示す社会の分断は一層深まる懸念がある。
メッセージで支持者結束か
「戒厳は国の危機を克服するための大統領の権限行使で、犯罪ではない」。尹氏は15日、捜査機関による身柄拘束後にフェイスブックで公開した文書でこう主張した。
拘束直後に公開した映像メッセージでは「不法捜査」だが、「望ましくない流血事態を防ぎたい気持ち」で出頭に応じたと説明した。こうした主張は大統領公邸前のデモで警察と衝突し、支持者らにけが人が出ないようにとの大統領の気遣いだと受け止められ、支持層の結束を強める方向に作用する可能性がある。
公邸前では革新層のデモ隊が「勝った」と歓声を上げた一方、高齢層を中心にした尹氏の支持者らは最後まで拘束は「不法だ」と叫び続けた。
野党支持率下落
3日には大統領警護処要員のスクラムに阻まれ、令状執行を断念した合同捜査本部の捜査員だが、今回は、行く手を阻もうとする要員の姿はほとんど見られなかった。「大統領絶対死守」の組織の締め付けの弱まりを物語る。
一方で、保守系与党「国民の力」議員ら約35人は公邸前で捜査員らの立ち入りに抗議した。尹氏の拘束後も与党議員らは「法治主義が踏みにじられた」「暴挙」だと激しく批判した。尹氏への捜査を巡る与野党対立が激化する恐れもある。
今年に入って各種世論調査の政党支持率でも与党が上昇、革新系最大野党「共に民主党」が下落し、ほぼ拮抗する現象が起きている。早期の尹氏拘束や弾劾審判の終結を優先し、首相の弾劾訴追まで主導した野党への批判の高まりが背景にあるとされ、与野党の支持層が互いに批判を強める状況が加速しかねない。
検事総長出身の尹氏と弁護団は捜査機関の今後の取り調べなどでも捜査の不当性を追及し、徹底抗戦を続けるとみられる。憲法裁判所の弾劾審判でも尹氏側は戒厳の正当性を訴えていくとみられ、捜査後の公判や弾劾審判は簡単には終結しない可能性がある。(ソウル 桜井紀雄)