韓国の尹錫悦大統領が19日未明、「非常戒厳」宣布を巡る内乱首謀容疑で逮捕された直後、激高した一部支持者らが逮捕状を発付したソウル西部地裁になだれ込み、内部を破壊して回る暴動に発展した。逮捕を歓迎する革新層と、反発して一層過激化する一部保守層の反応の違いが、社会分断の深刻さを印象づけた。
韓国の通信社は「法治主義の最後のとりでとされる裁判所が一時無法地帯となった」と伝えた。
韓国メディアによると、支持者ら数百人は警察官から奪った盾やいすでガラスの扉や窓を割るなどして地裁の建物内に乱入。地裁の看板は無残にも踏みにじられた。
壁やテレビ、現金自動預払機(ATM)が手当たり次第に壊された。逮捕状を発付した裁判官の名前を叫びながら、この裁判官を探し回る支持者の姿も見られた。
警察は機動隊など約1400人を投入して鎮圧。18日に地裁内に侵入しようとして拘束された人を合わせ、計86人が身柄拘束されたという。
尹氏は19日、弁護団を通じて「激怒する心情は理解できるが、平和的な方法で意思表示してほしい」と支持者に訴えた。
一方、尹氏はソウル近郊のソウル拘置所に正式に収容されることになった。退任後に逮捕された朴槿恵(パククネ)、李明博(イミョンバク)両元大統領と同様の10平方メートル程度の個室が与えられるとみられる。15日の拘束後はスーツ姿で過ごしてきた尹氏だが、収容者用制服の着用が求められる。現職大統領としては初めてだ。収容者番号が割り振られ、「マグショット」と呼ばれる収容記録簿用の人物写真を撮影する。
ただ、現職大統領のままであり、施設の外側で複数の警護官が24時間警護する状況が続く。尹氏が18日に地裁に移動した際も、尹氏が乗った護送車の前後を大統領用の警護車両で固め、通過に合わせて信号や他の車の流れが統制されるという異例の車列が登場した。(ソウル 桜井紀雄)