日本のお客さんを案内してソウルの観光スポット、明洞(ミョンドン)の飲食街に出かけたところ、ハングルで「ホンゴジプ」と書かれた焼肉屋があった。「ジプ」はお店の意味だが「ホンゴ」が分からない。よく見ると横に小さく「独りで(ホンジャ)食べる肉の店(ゴギジプ)」と書いてある。
のぞくと横並びのカウンターで独りずつ肉を焼いて食べる店だった。聞くとこの夏、開店したとか。日本で始まった「独り焼肉」スタイルが韓国にも導入されたのだ。ランチタイムは若い客で満員だった。韓国で急速に拡大している独り飯がついに焼肉にも及んだのだ。独り飯の「ホンパプ」が日常語になっているので、屋号を奇抜な略語の「ホンゴジプ」にして人目を引こうというわけだ。
韓国も独り飯ブームでラーメンやどんぶり飯物など手軽な日本食がさらに浸透しているが、日本から来たお客さんは「あれは焼肉文化の日韓交流で面白いけれど、観光旅行で韓国に来たからには純韓国風に、みんなで肉を囲んでワイワイいいながら豪快に食べたいよね」というのだった。
確かに独り焼肉は狩猟・牧畜文化系の肉を分かち合う原風景には合わないかもしれない。しかし食文化は時代とともに変わるし国境を越えて影響し合う。「ホンゴジプ」のにぎわいは感慨深い。(黒田勝弘)