【カイロ=佐藤貴生】オランダ・ハーグの国際刑事裁判所(ICC)が21日、戦争犯罪と人道に対する罪の疑いでイスラエルのネタニヤフ首相とガラント前国防相の逮捕状を出したことをめぐり、両氏が日本などICC加盟124カ国・地域を訪問すれば逮捕される可能性が生じたことへの欧米各国の反応は大きく分かれた。イスラエルの外交活動が制約されるとして同盟国の米国が反発する一方、一部の国はICCの判断を尊重すると表明している。
ICCは、パレスチナ自治区ガザで昨年10月に始まったイスラム原理主義組織ハマスとの戦闘で、ネタニヤフ氏らが民間人への攻撃を意図的に行った「合理的な根拠」があり、「飢えを戦争の手段にした疑い」があると述べた。
これに対し、イスラエルでは与野党を問わずICCへの反発が相次いだ。首相府は不合理で誤った「反ユダヤ主義的」な動きだと非難。野党を率いるラピド前首相も「テロリズムに対する褒美」だと批判した。対照的にハマスやパレスチナ自治政府は「正義(実現)への重要な一歩だ」などと歓迎する姿勢を示した。
欧州の反応はさまざまで、オランダのフェルドカンプ外相はネタニヤフ氏らの入国時に逮捕する意向を示す一方、フランス外務省はICCの判断は尊重するとしつつ、逮捕の可否への言及は避けた。ハンガリーのオルバン首相はICCの判断は「誤りだ」と述べて逮捕しない方針を示した。
米国は国民への捜査や訴追は主権侵害の恐れがあるとして、イスラエルと並んでICCには加盟しておらず、ネタニヤフ氏の身柄を拘束する義務もない。バイデン米大統領は「言語道断だ」とICCを批判した。
さらに注目されるのはトランプ次期大統領の対応だ。前政権期の2020年には、アフガニスタンでの米兵らの戦争犯罪を捜査していたICCの主任検察官を制裁対象に指定し、米国内の資産を凍結した。
イスラエル有力紙ハーレツ(電子版)は、ネタニヤフ氏がトランプ氏との親密な関係を背景に、ICCに「巨大な圧力」をかけるよう依頼し、逮捕状の撤回を狙う可能性が大きいと観測。以前からICC関係者への制裁を検討していた米共和党が、米国への入国を禁止したり米銀の口座を凍結したりする可能性もあると指摘した。
同紙は一方で、イスラエル支援への世論の反発も強い欧州などでは今回のICCの判断を機に、同国への武器禁輸を求める声が強まりかねないとも分析した。