約13年に及んだ内戦の末にアサド政権が崩壊したシリアを巡り、関係各勢力の外交駆け引きが本格化してきた。旧反体制派主体で樹立された暫定政府がどのような性格になるか見通せない中、各国はシリアへの影響力を確保しようと躍起だ。旧反体制派の中心で「イスラム過激派」と形容される「シリア解放機構」(HTS)も現状では穏健色を前面に押し出し、各国との関係構築を優先している。
14日、ヨルダン南部アカバに米国や欧州連合(EU)、トルコ、アラブ諸国の外交トップらが集まった。会合ではシリア暫定政府に対し、民族的・宗教的マイノリティー(少数派)の権利を尊重した包括的な政権運営を行うよう要求。「テロリストに拠点を提供してはならない」とくぎを刺した。出席したブリンケン米国務長官は「これらは(シリアが)今後の支援と承認を確実に手に入れるために決定的に重要な諸原則だ」と語った。
会合の内容は、各国がシリアに抱く共通の懸念を反映したものだった。暫定政府を主導するHTSは、かつて国際テロ組織アルカーイダに忠誠を誓った組織を母体とし、シリアで多数派のイスラム教スンニ派アラブ人を中心に構成される。政権移行が過度にスンニ派有利なものとなった場合、北東部を勢力圏とするクルド人勢力やアサド政権で力を持ったイスラム教アラウィ派などとの緊張を増大させかねない。
また、将来の本格政権が急進的なイスラム主義に傾斜すれば、スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)といったジハード(聖戦)勢力を利する恐れもある。米欧や周辺諸国には、今後の復興支援などと引き換えに、早い段階で暫定政府の〝手綱〟を握る狙いがある。
ブリンケン氏は、米政府がすでにHTSとの直接的な外交チャンネルを確保したとも説明。2012年にシリアで拘束された米国人記者の所在確認に向けた協力などを通じ、シリア情勢への関与を進める考えを示した。バイデン米政権には、対外関与に消極的とみられるトランプ次期政権の発足を前に、対シリア外交で一定の道筋をつける思惑もありそうだ。
14日の会合にはアサド前大統領の亡命を受け入れたロシアや、アサド政権を支援したイランの代表は招かれなかった。ただ、両国が今後、影響力回復を狙ってシリアへの介入を図る可能性は高く、情勢はなおも流動的だ。(ダマスカス 大内清)