【カイロ=佐藤貴生】イランのペゼシュキアン大統領は17日、ロシアの首都モスクワでプーチン大統領と包括的な戦略的パートナーシップ協定に調印する見通しだ。20日に発足するトランプ米政権はイランに強硬姿勢で臨む公算が大きいため、イランには、ロシアや中国との連携を強化して米国の圧力に対抗する狙いがある。
国営イラン通信によると、協定は経済やエネルギー、防衛など幅広い分野での協力強化が盛り込まれる見通しで、イランの駐露大使はペゼシュキアン氏の訪露は「歴史的なものになる」と述べた。
トランプ1期目政権は2018年、イランの核開発を制限するため米国が15年に結んだ核合意から離脱、経済制裁を再発動して「最大限の圧力」政策を進めた。2期目でこの政策が復活するとの見方が有力だ。
一方のイランは中露への接近を進めてきた。ここ数年、原油輸出に際し、米制裁回避のため自らが売り主であることを隠しているとされ、ロイター通信によると中国はその9割を市場より安い価格で購入した。イランは21年、ロシアに先立ち中国と25年間の包括協力協定に署名しており、中露主導の上海協力機構(SCO)やBRICSへの加盟も承認された。
改革派のペゼシュキアン氏は「欧米との関係を改善して経済低迷を脱する」と訴え、昨年7月の大統領選決選投票で当選を果たした。しかし、トランプ氏が同11月の米大統領選で勝利し、対米関係の改善はより困難になった。
イランを取り巻く国際情勢は厳しさを増している。巨額を投じて強化してきたレバノンの民兵組織ヒズボラはイスラエル軍の攻撃で弱体化し、シリアでは支援したアサド政権が崩壊。「シーア派の弧」と呼ばれた対イスラエル包囲網が寸断され、国際的な影響力は大きく後退した。
国内でも難題が待ち受ける。ロイターは昨年末、トランプ氏の大統領復帰が決まってからイランの通貨リアルは18%価値を下げ、対ドルで史上最安値を更新したと伝えた。インフレ率も年率30%超で推移している。抑圧的なイスラム教シーア派の政教一致体制に多くの国民が反発しており、不況が続けば反政府デモに発展する恐れもある。
イランはウランの製造を核兵器級の濃縮度90%に近づく60%まで引き上げている。米ニュースサイト、アクシオスは今月上旬、イランの核開発の進展は著しく、米国が圧力をかける政策は効果的ではないとトランプ次期大統領の複数の顧問が認めたとし、イランに対して米国が軍事攻撃という選択肢を取る可能性が現実味を帯びていると伝えた。