埼玉県川口市に集住するトルコの少数民族、クルド人の難民認定申請者の半数程度は、学歴が中学卒業以下だという。トルコ国内の高校進学率はクルド人を含め9割以上で、背景には経済的な問題もあるとみられる。一方で、トルコでは22人兄弟の中から猛勉強して成功したクルド人にも出会った。
「クルド人」考えたことない
クルド人が人口の約6割を占めるトルコ南部の都市シャンルウルファの私立学校を訪ねた。保育園、幼稚園から小中高校まであり、在学生は約700人。2年前に開校したばかりでクルド人の生徒も少なくないという。
経営者のクルド人、ネジメディン・ゲンチさん(42)は地元出身。経済的に貧しい農家の22人兄弟の21番目で、苦学して公認会計士の国家試験に合格、現在は親族らと学校2校、建設会社、バス会社、コンサル会社、映画館を経営しているという。
「小学校まで5キロの道を歩いて通った。休日はヒツジの放牧を手伝った。私は決して勉強ができたほうではないが、これまでクルド人だからと差別されたことなどない」
クルド人地域は歴史的な経緯から複数の国に分割され、「国を持たない最大の民族」といわれる。ただ、今回トルコで出会ったクルド人の多くは社会的な立場に関わらず「トルコ人」として振る舞い、「クルド人」かと尋ねると「なぜ、そんなことを聞くのか」とけげんそうな顔をされることも多かった。一方で遺伝的な特徴などから「顔を見ればわかる」と話す人もいた。
ゲンチさんは「国家試験に合格したのも、頑張ったからだ。そもそも、自分がクルド人だからなど、これまで考えたこともない」。
彼はクルド系政党に投票しているというが、そのことで迫害も差別も受けたことはないという。日本で難民申請している川口のクルド人について尋ねると、「自分の努力不足を棚に上げて『クルド人だから』と不平不満を言っているだけではないか」。
校舎の壁には宇宙のイラストが描かれ、「世界の扉は君の前に開かれている」と書かれていた。
教育機会の平等は保障
トルコの教育制度は小中高がそれぞれ4年ずつあり、10年ほど前から高校も義務教育になった。憲法に平等原則が明記され、民族的な出自による差別はない。公立の授業料は高校、大学まで無償で、競争は激しいが、教育機会の平等は保障されているといえる。
この結果、高校進学率は上昇し、2022年度は91・7%。大学進学率は4割程度となったが、義務教育にもかかわらず高校に行っていない数%には農村部に住むクルド人も少なくないという。
現地の教育関係者は「農村地域はまだまだ子供を牧畜などで働かせている。親の世代は高校が義務教育ではなかったため、いまも教育に意義を見いだせない人も多いのではないか」。
トルコでは現在、クルド系の国政政党があり、与野党問わずクルド人の政治家を輩出しているほか、国営放送にクルド語のチャンネルもある。クルド語の教育機関の設立も認められているが、公用語がトルコ語で、クルド語を学んでも仕事に生かせないため、あまり人気はないという。
公務員試験も憲法で「採用に当たり職業資格以外にいかなる差別も行ってはならない」と規定されている。受験の願書に民族欄もないため、公務員全体のクルド人の割合の統計もないという。
学歴不問でガテン系
シャンルウルファでトルコ政府の出先機関に勤める国家公務員のクルド人男性(40)は「小学校に入るまでトルコ語を話せなかった。勉強して話せるようになったが、12年前に公務員試験を受けたとき、試験は当然トルコ語で苦労した」と話し、こう続けた。
「外国の人からクルド人は迫害されているのかと聞かれることがあるが、私は迫害はないが差別はあると感じる。言葉の壁もあり、自分たちが少数民族と思い知らされるときもある」
入管関係者によると、日本の難民申請書には学歴欄があり、川口周辺に在留するクルド人の難民申請者の半数程度が中卒以下で、高校の義務教育化以降の世代でも教育を受けていないケースが少なくないという。
川口市内では若いクルド人が改造車を乗り回す暴走行為も問題になっている。トルコの教育関係者は指摘する。
「もちろん学歴がすべてではないが、農村からいきなり日本の都会に来て、教育レベルも高くなければ地元住民と軋轢が生じやすくなるのも当然だろう。それでも学歴不問の力仕事で簡単に稼ぐことができる日本は、本当に魅力的なのではないか」