シリアのアサド政権崩壊を受け、サリンなど化学兵器の全廃を実現すべきだという声が国際社会で強まっている。アサド政権下では化学兵器による反体制派の虐殺が何度も行われたとされ、化学兵器が国内に貯蔵されている疑いもあり、何者かが盗んで悪用する恐れが指摘されている。
欧米メディアの報道ではアサド政権が崩壊直前、旧反体制派の進撃を止めるために化学兵器を使用しかねないとして、米政府が関連施設を監視していたと伝えた。イスラエル軍は政権崩壊後、貯蔵疑惑がある施設も空爆したとしている。
政権打倒を主導した旧反体制派「シリア解放機構」(HTS)を率いるジャウラニ氏は、化学兵器貯蔵の疑いがある場所の保全を国際組織と協力して進めていると述べた。
化学兵器禁止条約(1997年発効)は化学兵器の開発、生産、保有を禁じている。加盟国の申告を受けて化学兵器や生産施設を調査する「化学兵器禁止機関」(OPCW)も、政権崩壊後のシリアの情勢を注視しているとした。
アサド政権は2011年に始まった内戦で、反体制派の弾圧に化学兵器を多用したとされる。13年8月には首都ダマスカス近郊のグータ地区で子供数百人を含む民間人1400人以上が死亡し、サリンによる攻撃との見方が強まった。
同年10月、アサド政権は同条約に加盟したが、これは国際社会を欺く偽装だった疑いが強い。OPCWと国連は政権の申告に基づきサリンやVXガス、マスタードガスなど千トン以上を廃棄したが、17年に北西部イドリブ近郊で約百人が死亡した際など、その後もしばしば化学兵器の使用疑惑が浮上した。
アサド大統領一族は少数派のイスラム教の一派、アラウィ派の出身で、多民族国家シリアを支配する上で恐怖に基盤を置く独裁体制を敷いた。化学兵器はいわば独裁を維持する道具として使われた形だ。
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は、化学兵器の使用事例が内戦後半に減ったため、残っている化学兵器は比較的少量だとする専門家の推測を紹介した。安全な調合方法を知らない限り、兵器として使用するのは難しいという。(中東支局 佐藤貴生)