2022年、静岡県内の広い範囲で、土砂崩れや浸水などの被害をもたらした台風15号。壊滅的な被害を受け、休業を余儀なくされていた静岡市の旅館が、約1年5か月ぶりに営業をスタートしました。その軌跡です。
3月2日、客室や大浴場の改修を終えた「油山苑」は、被災から約1年5か月ぶりに本格的な営業を再開しました。
(油山苑 大塚 祐史さん)
「いろいろ問題あったが、 やっと再開できて、お客様を迎え入れられるので、楽しみです」
浸水や土砂により、壊滅的な被害にあったロビーや客室は新たに生まれ変わり、温泉の供給が止まっていた大浴場も復活しました。
2022年9月、台風15号の猛烈な雨により、静岡市葵区の中山間地域「油山地区」では油山川が氾濫し、土石流が発生。創業1966年の「油山苑」には、床上1メートル50センチを超える浸水や、大量の土砂が流れ込みました。
旅館を経営しているのは、大塚祐史さん。地元食材を使った会席料理や猪鍋などが人気の旅館でした。
「油山苑」を母親から引き継ぎ、妻とともに30年以上守り続けてきましたが、厨房機器や食器などは全て流され、建物内には20センチを超える土砂が残り、休業を余儀なくされました。
(油山苑 大塚 祐史さん 2022年10月)
「先ほども泥をかいていたが、床板一枚上げるにしても、のこぎりが泥をかんで切れない。まずはそこからの作業になります」
そんな油山苑を救ったのは、多くのボランティアや常連客。連日多くの人が支援に訪れ、敷地内に残った土砂や災害ゴミを2か月かけて運び出しました。
そして、2023年2月。再開に必要な厨房の整備に取り掛りましたが…
(油山苑 大塚 祐史さん)
「これは無理だな…」「ここまですごいのか…」
(業者)
「直した方が高くなりそうですね…」
(油山苑 大塚 祐史さん)
「残念」
大塚さんは、旅館の再開にかかる4000万円以上の費用や生活費をまかなうため、まずは、食事処を再開させ、収入源を確保してから、旅館を再建することにしました。
クラウドファンディングで支援を募るなど、少しずつ再開への準備を進め、被災から1年が経過した2023年11月。油山苑はランチ営業を再開しました。
(女将 2023年11月)
「小松菜とムカゴを入れてとろろをかけたおひたしと、前にもお出ししたローストビーフです」
久々の油山苑の味に、お客さんは…
(客)
「あ~おいしい~」「とてもおいしく、季節も感じられる」
ランチの再開から4か月。この日、やってきたのは、宿泊施設のオープンを待ちわびた県外からの常連客。チェックインを終え、新しい客室へ案内されると…
(県外からきた客)
「きれいだね。いいね」「苦労をいろいろと聞いていたので、大変なことを乗り越えて復活できたことをうれしく思うし、これからも応援していきたいなと思う」
念願の再開に笑顔を見せる大塚さん。これまでの道のりは長く厳しいものでしたが、ようやく新たな一歩を踏み出しました。
(油山苑 大塚 祐史さん)
「被災して復興までに1年半かかったが、諦めずに前を向いてやっていけば、必ず復興できる。規模は小さくなったが、今後は家族だけでやるので、お客様の細かいところまで目が行き届くようなサービスをしていけるような旅館にしていきたい」
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