11月17日は早く生まれた赤ちゃんや親について理解を深める「世界早産児デー」です。
さまざまな壁に直面しながら子どもの成長を見守る親の願いとは
国内で誕生する10人に1人の赤ちゃんが2500g未満で生まれる「低出生体重児」、いわゆる“リトルベビー”といわれています。
10月、静岡県立こども病院では、小さく生まれた子どもたちについて学ぶ研修会が行われ、子どもたちのケアに携わる県内の医療従事者や保健師が参加しました。
その中にある特別な思いを持った女性たちの姿がありました。
(青山悠さん )
「おめでとうございますという言葉が痛くてつらかった」
(田形知里さん)
「つらい助けてと言いたかった」
登壇したのは、小さく生まれた赤ちゃん“リトルベビー”を育てる母親たち。
子育てへの思いや行政への必要な支援などについて一人ひとりが語りました。
(田形知里さん)
「吸ってもらえないおっぱいを真冬に一人であざができるくらい搾るのは本当にむなしすぎて毎回涙が出ていた」
(青島悠さん)
「え、ほんと、とむごたらしい感情が渦巻いていたことを思い出します」
その中に、“リトルベビー”の男の子を育てる女性が。
焼津市に住む大石和美さんは長男・陽翔くんの子育て真っ最中。
現在1歳11か月で(22年11月24日生まれ)元気いっぱいの陽翔くんですが、25週546gで生まれ、呼吸など健康状態が安定するまでおよそ半年間NICUにいました。
初めての出産を思いもよらぬ形でむかえ、生まれたわが子は保育器の中。
(大石和美さん)
「出産の準備をしようかなというときだったので、本当に気持ちがついていかなかった。何が何だかわからないまま出産になった」
早く生まれたことで体は小さく心とからだの成長もゆっくり。
戸惑うことも多いと言いますが、周りと比べず陽翔くんのペースでの成長を見守ってきました。
この日は、大石さんが所属する“リトルベビー”の当事者サークル「ポコアポコ」のメンバーとして親が抱える不安や孤独を知ってもらいたいと病院を訪れました。
(大石和美さん)
「一番つらかったのが出産した後の自分の退院した日でした。出産したのにわが子と一緒に帰れない」「え、おいくつですかと聞かれることが多い。そのたびにいちから説明する説明がつらかった時期もある」
“リトルベビー”に対する理解はまだ十分とは言えず、社会とのかかわりの中で大石さんのように悩みを抱える親は少なくありません。
(大石和美さん)
「リトルベビーのママって孤独というか、壁ができちゃって距離感があるなというのを伝えられればと思いながら、それが一番の悩みでそれが伝わったかな」
大石さんが所属するサークル「ポコアポコ」は静岡市を拠点に「リトルベビー」を持つ親子の交流や社会への理解を広めるための活動をしています。
代表の小林さとみさんも双子のリトルベビーを育てた経験を持ちます。
この日、小林さんは「世界早産児デー」を前に展示会の準備に追われていました。
(「ポコアポコ」代表 小林さとみさん)
「これ(ぬいぐるみ)、うちの子どもとおんなじ体重466gで29センチ」
「ポコアポコ」は、小さく生まれた子どもたちのための母子手帳「リトルベビーハンドブック」を生み出しました。
一般的な母子手帳は体重が1キロ未満の記入欄がなく、月齢ごとの発達も達していないことが多いため、小さく生まれた赤ちゃんの成長を記録しづらいのが課題でしたが、このハンドブックでは体重は0gから、発達は「できた日付」を記録することができるのです。
静岡で生まれたハンドブックは全国に広がっています。
“リトルベビー”の子どもたちが成長するにつれ立ちはだかる壁は多くあります。
掛川市の咲来ちゃん(3)は予定より3か月早く774gで生まれました。
「さくら、だっこしたよ」「落ち着いてますね」「さくら、いいねえ」「重たい?」「軽い…」「さくら。初抱っこだよ、うれしいなあ」
リトルベビーで生まれた咲来ちゃんですが、すくすくと成長
初歩き「上手」「つかましてくれ~って」
(さくらちゃんの母親)
「これだれ~パパだね、これだれだ?これさくらだよ。いっぱい頑張ったんだよ。」
そしてこの春、保育園に入園しました。
(さくらちゃんの父親)
「保育園で友達と遊ぶことが増えて、今まで一人で遊ぶことが多かったのがわりと友達と話したり、友達と遊んだことを話してくれたりするようになった」
一方、次のステップに向けた新たな課題も
(さくらちゃんの母親)
「就学は一つの大きな壁考えていかなきゃいけないところ」「就学猶予の制度があるとわかっていても、実際それを使いたいと思ってもそれに向けてのハードルが高くて」
「就学猶予」は学校教育法で定められた義務教育への就学を猶予するもので“リトルベビー”の子どもも対象となっています。
こども家庭庁は2024年9月、全国の自治体に対しリトルベビーを持つ親に「就学猶予」の情報提供をするようあらためて周知しました。
しかし「就学猶予」の判断は市や町の教育委員会に委ねられ、自治体によって対応が異なるのが現状です。
(さくらちゃんの父親)
「小さく生まれちゃったこととかは隠さずに関わってくれる人にはしっかり説明して。個人の成長を見守ってくれたらうれしいなと思う」
(さくらちゃんの母親)
「小さく生まれた子は周りになかなかいないので、成長を喜びつつ不安を抱えている保護者がいるというのは周りに知ってもらいたいと思う」
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